「お父さんは、ロータリーにいるから」

　そう言った母の視線の先には既にベージュの四角い軽自動車が止まっている。
　以前、我が家の家業の名前が大きく書かれた軽トラックで迎えに来た父に「恥ずかしい」と言ってからは自家用車で迎えに来てくれることが当たり前になっていた。

「お帰り」

　ドアが開くと運転席から顔を出す。汚れたTシャツに皺の増えた首元には白い手拭いを巻いている。恐らく忙しい作業の合間にこうして迎えに来てくれたのだろう。なのに感謝よりも別の感情が顔を出す。

「……お父さん。迎えに来るなら着替えてよ。恥ずかしい」

　再会の挨拶よりも文句が先をつく私に、後部座席に乗り込んだ母が苦笑いを浮かべる。

「この子ったら。すっかり東京に染まっちゃって」

「そういう問題？」

「問題でしょ。昔は人目なんて気にしなかったのに」

「それは子供だったから。ただ、大人になっただけ」

「はいはい」

　助手席に乗り込むなり言い合いを始めた私と母に、父は何も言わずに蟀谷を伝う汗を手拭いで拭いながら苦笑するだけだった。

　車は駅前の大きな商業施設を通り過ぎると、大通りを真っ直ぐ進んでいく。この辺りもいつの間にか変わってしまった。