「お、おはよう」

「おはよう」

 昨日のこともあり父とは少しぎこちなく挨拶を交わすと、キッチンで朝食の支度をしている母の手伝いをする。

「今日もサラダ?」

「今日はトーストも貰おうかな。久しぶりに、我が家特製の林檎ジャムも食べたいから」

「ダイエットはやめたの?」

「うん。食べれる幸せに感謝して遠慮なく頂くことにした」

 すると母は少し垂れた瞼で何度も瞬きを繰り返した後「そうね」と、優しく微笑んだ。

 __食べれることは健康な証拠。
 __食べれることは豊かな証拠。
 __食べれることは生きている証拠。

 健康の為のダイエットは必要なことだけれど、必要以上のダイエットは人生損しているように思う。

 “__死んだら何も食えないんだぞ?”
 そんな秋雄の言葉は、この胸の奥深くに突き刺さった。
 この身体が健康なことも。自分が生きていることも。当たり前ではない。ならば健康で生きているうちに、その幸せを噛みしめたい。美味しいと感じることができるのに、幸せを感じることができるのに我慢するなんて勿体ないから。

「いただきます」

 しっかり手を合わる私の顔を揃って凝視する両親の視線は気にせずに、こんがりきつね色に焼き上がったトーストにマーガリンと自家製林檎ジャムをたっぷり塗る。そして、大きな口でかぶりつくと最後に甘いアップルティーで流し込む。

「……美味しい」

 懐かしい実家の味に思わず目頭を押さえながらガクリと項垂れる。

「大袈裟ね」

 母は呆れているけれど長らくサラダしか食べてこなかった私の脳が、朝の糖分に恐ろしい程の幸せ物質を分泌させている。

「何か、昔の夏実に戻ったみたいだな」

 お茶を飲みながら父は笑っているけれど、私は一緒に笑うことはできなかった。
 だって、過去の自分はあまり好きではないから。