“__林檎は、お前の兄妹だな”

 小学生の時、秋雄が言った。
 林檎の苗が実をつけるようになるまで約五年程。寿命は数十年。その間、両親は子供を育てるように雨の日も風の日も林檎を守り天塩にかけて育てる。
 農園の手伝いをしていた秋雄は、娘である私よりも先にそのことに気づいていた。
 無神経なようでどこか繊細で。他人に無関心なくせに観察力には長けていて。そんな秋雄の人間性に私は惹かれたのだ。

「林檎が食いたいなー」と、突然不貞腐れたように唇を尖らせる。

「幽霊ってお腹空くものなの?」

「全く」

「なら、食べなくてもいいじゃない。食費はかからないし太らないし。羨ましい限り」

 すると、首をやれやれと横に振りながら大きな溜め息を吐く。

「本当。つまらない」

 いつから「つまらない」が口癖になったのだろう。そう思う程に昨日から何度も耳にしている。

「ナツは食べることが大好きだったじゃないか。なのに何だよ。体重なんて気にしてるから、三日月みたいな顎して棒みたいな手足して。胸なんてまな板」

「煩いなっ! スリムって言いなさいよ!」

 セクハラ紛いの言葉を遮ると秋雄はまた唇を歪ませては変な顔をする。

「ナツ。死んだら何も食えないんだぞ?」

 そう言った秋雄は至って真面目な顔をする。この切り替えの早さに私は昔からついていけない。ふざけていたと思うといきなり神妙な顔をしたり。冗談を言っていたかと思うと突然真面目な話をしたり。よく、こいつの頭の中を覗いてみたいと思っていた。