「デートって認識があったんだ?」

 思わず意地悪を言うと秋雄は不服そうな顔をする。

「そりゃあ、彼女と二人で出掛けたらそれはデートだろ」

 過去の秋雄からは「デート」「彼女」という言葉を聞いたことがない。だから私は、いつも二人の関係に秋雄の気持ちに不安を抱いていた。なのに幽霊になった秋雄は躊躇することなく口にするから何だか調子が狂う。

「とりあえず、明日は浴衣で来いな」

「え?」

「え? じゃないだろ。その写真の通りなら俺は浴衣なんだから」

「だからって私は嫌だよ。人波でごった返すような夏祭りを浴衣で楽しむ気力なんてないし」

 すると、秋雄がボソリと呟く。

「……ったく。勝手に老けやがって」

「はい? 何か言った?」

「いや? 夏実さんは随分とお歳が召されたようで」

 ムッとはするが間違ってはいない。私は二十二歳。見た目も体力も気力も十二歳の秋雄には敵わない。

「まあ、とりあえず。今日の所は久しぶりに農園で寛ぐかな」

 勝手に話を終わらせると秋雄はフラフラと林檎農園を歩いている。

「ちょっと、待って!」

 見失わないように、すぐにサンダルからスニーカーに履き替えると私は秋雄の背中を追いかけた。

「待ってって」

 少し走っただけで息が上がる私を秋雄は何か物言いたげな顔で見つめている。

「……何よ」

「ナツ。走り方がおばさんだぞ?」

「はー? あんたにデリカシーはないわけ!?」

「ナツにデリカシーって言葉は無縁だろ」と、口を歪ませると秋雄はまたスタスタと林檎の幹をすり抜けていく。幽霊になっても足はあるし無礼な発言は変わらぬようだ。

「今年もお前の兄妹は立派に育ったな」

 秋雄は葉の隙間から降り注ぐ日差しに目を細めながら、紅く実った林檎を愛しそうに見つめている。