写真をフローリングの上へと並べていくと、今日の日付けが記された写真を見つけた。

 “__2014.8.3”

 そこには、我が家の林檎農園を背景に父の軽トラックの荷台に乗った私と秋雄の姿が映っていた。

「……そうだ」

 九年前の今日は、秋雄が初めて彼氏として家に遊びに来た日だった。なのに、二人揃って学校指定のジャージを着て軽トラックの上ではしゃぐ姿は色気の欠片もない。
 眺めていると、海底に沈めていた記憶が泡のようにポコポコと浮かび上がる。

 秋雄は私に会いに来たのではない。昔から恒例の林檎の収穫を手伝いに来てくれたのだ。慣れた手つきで楽しそうに「はけご」と、いう収穫籠に捥いだ林檎を入れていた。休憩になると軽トラの荷台に乗って伸びをしながら、農園の空気を大きく吸い込み「最高だな」と、秋雄は微笑んでいた。母が冷えた缶入りのジュースを差し入れしてくれて、私達は他愛もないことを話して。そんな姿を父がインスタントカメラで撮影した。それがこの写真だ。
 なのに秋雄は生徒手帳に農園の手伝いではなく「ナツ」と、名前を書いていた。それが何だか嬉しい。

「……秋雄」

 小さく呟いた名前がポトリとフローリングの上へと落ちていく。窓の外には、あの日と変わらぬ景色が広がっているのに切り取られたように秋雄だけが……。