ソファーに座り優雅にコーヒーを飲む父と朝の挨拶を交わすと、私はキッチンの蛇口の水をコップに汲み一気に飲み干す。久しぶりに飲んだ田舎の水は、夏なのに冷たくて清んだ味がする。東京ではペットボトルのミネラルウォーターを箱買いしているが、その話を初めて両親にした時には酷く驚かれた。私も美味しい水が水道から出てくることが当然だと思っていたから、初めて東京の水を飲んだ時には驚いた。

「林檎運んでくれる?」

「あ、はい」

 母からくし形に切られた林檎が山盛りに乗ったお皿を受けとると、ダイニングテーブへと運ぶ。収穫期恒例の光景だ。
  風で落ちてしまって傷物になった林檎は、例え味が劣らなくとも売り物にはならない。ジャムやジュースなど加工品として販売しているが、実質それだけでは消費しきれない。よって我が家でも毎食林檎が登場する。

「あなた。出来たわよ」

 母が声をかけるとソファーに座っていた父が、ダイニングテーブルの椅子へと移動する。父と母の席には、今朝焼いた(ます)にご飯と味噌汁に自家製林檎ジュースが並んでいる。私の目の前にはグリーンサラダと、乾燥させた林檎の皮を茶葉に混ぜたアップルティー。昔から、朝食だけはパン派の私とご飯派の両親は別々のものを食べている。

「夏実。トーストは?」

「サラダだけでいいや」

「昼までもたないでしょ?」

「大丈夫」

 大学に入学してからは、自分磨きに勤しむ周りと話を合わせる為に自分もダイエットを始めた。付き合いでお洒落なパンケーキを食べに行くこともあるけれど、基本はカロリーを考えて生活している。そんな今の私にとって、マーガリンと我が家で作った自家製林檎ジャムをたっぷり塗った厚切りトーストは天敵だ。