「夏実。起きなさい」

 瞼の裏に光が映る。顔をしかめながらも、ゆっくりと瞼をこじ開けると母が部屋のカーテンを開けていた。
 私は寝転がったまま枕元にあるスマホを手に取ると、ディスプレイに表示された時刻に溜め息を漏らす。

「……まだ、八時だよ」

「もう、八時」

 農園の朝が早いことを忘れていた。

「お風呂にも入らないし部屋も散らかってるし。ちゃんとしなさいよ」

 ブツクサと文句を言いながら部屋から出て行く母の背中を眺めながら、昨日は夕食後ベッドに寝転がっていたらそのまま眠ってしまったことを思い出す。そしてシャワーも浴びずに、汗が乾いたTシャツを着ている自分に自然と口元が歪む。
 急いで身体を起こすと部屋を出る前に、さっき通知ランプのついていたスマホを確認する。啓太からメールが届いていた。

 “__無事に実家に着いたかな?ゆっくり休んで”

 昨日は、バダバタとしていて帰省後の連絡をしていなかった。

 “__無事着きました。ゆっくりしています。今日も仕事頑張って”

 当たり障りのない返事を送ると、私はベッドから立ち上がり床に散らばったままの写真をかき集める。すぐにシャワーを浴びて汗を洗い流し実家専用の部屋着におろしたTシャツと膝丈の短パンに着替える。髪の毛にグルグルとタオルを巻いたままリビングに戻ると、ダイニングテーブルに朝食を並べていた母が私の姿に苦笑している。

「……その頭」

「時短。こうしてると、そのうち乾いて楽なんだよ」

 都会の中で生きていると、鎖骨の下まである髪を乾かす時間すら惜しいと思ってしまう。満員電車を避ける為に少しでも早く家を出て、帰宅しては次の日の為に少しでも長く睡眠時間を確保して。
 しかし、今は夏休み。 
 いつものように時短を意識する必要はなかったのに、癖とは恐ろしい。