「ところで、北村さんには話せたの?」

 黙々と食事をとる父を横目に母が尋ねる。昔から父はあまり会話をしない人だった。だからと言って、私と母が話していることを注意したり不快に思っている様子もない。だから私も気にせず口を開く。

「うん。ちゃんと報告してきた」

「そう。それは良かった」

 母と顔を見合せ微笑み合っていると、ふと脳裏にソックリさんの姿が浮かぶ。そういえば、あの人……。

「どうしたの?」

「な、何でもない」

 私は笹寿司をいくつか口の中に放り込むと、しっかりと味わった後にたけのこ汁で胃の中へと流し込む。いきなりバクバクと食べ出した私を母は呆気にとられたように呆然と眺めていた。

 両親より一足速く食事を済ませると、自分の食器をキッチンまで運びそのまま自分の部屋に戻る。そして部屋の隅にあるクローゼットを開ける。奥深くにしまった埃の被った四角い缶箱。元々はクッキーか何かが入っていた赤い箱に、当時の宝物をこっそり隠していた。

 しかし秋雄が死んでからは一度も開けたことはない。謂わば、私にとったらパンドラの箱だ。
 速くなる鼓動を整える為に一度大きく深呼吸をする。見たい。見たくない。確かめたい。確かめたくない。そんな相容れない感情を振り払うように
缶箱についた埃を手で払うと勢い良く蓋を開けた。

 パカリ。と、軽い音を立てながら開いたパンドラの箱。中には思い出の品々がギッシリと詰まっていた。
 秋雄と原っぱで見つけた四つ葉のクローバー。秋雄と行った小川の石ころ。
 __そして、秋雄と撮った二人の写真。