俺達は顔を見合せて微笑み合う。
 するとどこからか差し込む眩い光りが二人を優しく包み込む。遠くからは懐かしい人達の声が聞こえた。

「お父さんとお母さんだ! おばさんもいるよ!」

 ナツは嬉しそうに微笑む。
 そして、振り返ると泣いているみんなに向かって小さく手を振った。

「みんな、今まで本当にありがとう。大好きだよ」

 少し秋の匂いが混じった風が、窓の外からみんなの前を通り過ぎていく。
 まるで、ナツの言葉が聞こえているかのように一斉に顔を上げるとみんなは窓の外を見てそっと微笑んだ。

 遺された者達は亡くした者のことを想いこれからも涙するだろう。毎日会いたいと願っては叶わない現実に苦しむこともあるだろう。
 それでも俯くことなく顔を上げていて欲しい。塞ぎ込まずに外に出て耳を澄ませてみて欲しい。
 そうすれば、きっと亡き者たちの想いを感じるはずだから。

 そっと頬を撫でる風の音が。自由に飛び回る虫達が。道端で目にした何かが。
 亡き者達からのメッセージかもしれない。
 亡き者たちはいつも遺された人達のことを思っている。遺された人達に寄り添っている。
 だから目の前の悲しみに飲み込まれないで亡き者たちからのサインを受け取って欲しい。そして亡き者のことを思い出し笑っていて欲しい。

「……じゃあな、みんな」

「またね」

 暫しの別れの後、いつかこうしてまた会えるその日まで俺達は空から見守っている。

「じゃあ、行こうか」

「うん」

 だからもう一度互いの手を握りしめると、笑顔でこの足を一歩踏み出す。
 この先で待っている温かな世界へと向かって……。



おわり