「夏実！」

「ナッちゃん！」

「林檎娘！」

　目を覚ますと目の前にはナツが眠っていた。長い夢を見ていたせいか、見慣れたはずの年老いたみんなの姿に違和感を覚えては一人苦笑する。

「……もう、七十歳だもんな」

　自分だけが歳を取らないというのは不思議なものだ。
　まるで、この世界に一人だけ取り残されたような疎外感を覚える。だけど寂しいと思ったことは一度もない。それはナツが俺の存在を信じてくれていたからだ。
　例え姿が見えなくても触れるのとができなくても。俺を感じ俺を想ってくれていた。

「……林檎娘」

　もう娘という歳ではないけれど、ぶーちゃんが懐かしいあだ名を呼ぶ。
「出会いがない」と、嘆き続け結局は今も独身のぶーちゃんは定年後は精力的に林檎農園を手伝ってくれていた。

「夏実」

「……小林」

　ナツの頭を撫でる真由を、そっと優しく佐藤が支える。
　ナツの両親が亡くなってからは、一人で林檎農園を切り盛りするナツを二人が側で支えてくれた。

「……ナッちゃん。農園のことは心配いらないからね」

　そして、マオがナツの手をそっと握る。
　あんなに小さかったマオも、今ではもう四十七歳になり三人の子供を立派に育て上げた。
　生涯独身を貫いたナツは、跡取りがいない農園を一度は辞めることも考えていた。でも、それを誰よりも悲しんだのはマオだった。そして自分が跡を継ぐと名乗り出てくれた。