「今年も私の兄弟は立派に育ったよ」

 キラキラと輝く太陽に目を細めながら、目の前に聳え立つ林檎の木にそっと触れる。
 金魚の秋雄のお墓に植樹したシナノゴールドの苗は、私の身長を遥かに越して年々立派な林檎を実らせるようになった。
 こうして、これからも気づけば月日はそっと優しく穏やかに過ぎていくのだと思う。
 空を見上げながら胸に手を当てると心がほんわりと温かくなる。
 __今、私は幸せだ。

 この前、大学時代の友達から啓太が結婚して今では二児の父親だという話を聞いた。だけど正直何も思わない自分がいた。
 彼は彼の望む「それなりの幸せ」を手に入れたのだろうし、私は私の望む幸せを今は噛みしめているのだから

「よいしょっ」

 背伸びをしながら真っ赤な林檎を捥ぐと両手に乗せる。そして自分の鼻を近づけると……。

「……秋の匂いがする」

 その瞬間、答えるように優しい風が私の前髪をそっと撫でる。
 姿が消えたあの日から、秋雄が再び現れることはなかった。
 だけどふとした瞬間にこうして気配を感じる。例え姿が見えなくても秋雄は私の側で見守ってくれているのだと思う。

「夏実!」

「林檎娘!」

 真由とぶーちゃんが遠くから私を呼んでいる。
 __大切な人達。
 __大切な場所。 
 これからは私が守っていく。
「はーい!」と、大きく手を振ると二人の元まで笑顔で駆けていく。
 顔には土がついてTシャツは汗で濡れているけれど、この場所で生きる今の自分がとても好きだ。
 __秋雄。ちゃんと見てる?
 __いつか会えるその日まで、ちゃんと側にいてよね。