「じゃあ、俺は戻るよ」

「うん」

 啓太と会うのはこれが最後だ。互いにそうわかりながらも、これといった言葉を交わすことなく背を向ける。
 本当、大人の恋愛は呆気ない。いや。大人を理由にするのはもうやめにしよう。私達が、ただそれなりの関係しか築けなかっただけだ。
 私は溜め息を吐きながら墓前の前に腰を下ろすと、ウェストポーチから白樺の皮を乾燥させた「かんば」を取り出す。そして、ライターで紅色の火をつけた。

「じーちゃん。ばーちゃん。戻っておいでー」

 空に向かってゆらゆらと伸びる煙を眺めながら、そっと囁くように歌う。
 __会いたいよ。秋雄。

「ここは、お前のじーちゃんばーちゃんの墓じゃねーし!」

 すかさず突っ込む声に驚いて顔を上げると、秋雄は墓石の上に胡座をかいていた。

「秋雄!? って、行儀悪っ!」

 思わず仰け反る私をギロリと睨みつける。

「うるせー。お前は何をやってるんだよ。ハイスペックを振って俺と生きるなんて、俺は死んでるっつーの!」

 呆れる姿を見ながら目尻に滲む涙を人差し指で拭う。また、会えたことがただ嬉しい。

「さっさと嫁に行けよ。成仏できないだろ?」

「させるつもりは、ないって言ったら?」

「お前な……。って、それ」

 秋雄は私の薬指で輝く指輪を見つけたのか、眉間に皺を寄せた。

「生徒手帳は捨てろって言っただろ? そんな子供のおもちゃみたいな物をつけるな。歳相応の物をハイスペック彼氏に買ってもらえ」

 その言葉に今度は私が溜め息を漏らす。

「あのさ。歳相応なんて私の言葉が移ったの? つまらないことを言うようになったね」

 ゆっくりと立ち上がると、触れることのできない秋雄の頬に手を伸ばす。