「こういうことが昔から沢山あった。心が先に拒否して試す勇気もなくて。でも行動を起こしたその先には私の知らない答えがあるのに」

 例えば、びんずる一つにしてもそう。
 心は無理だと思っていたのに秋雄に即されて踊ってみたら案外楽しかった。農協の人達とまた繋がれるきっかけともなった。

「それを教えてくれたのが秋雄なの」

 そっと触れると温もりのない名前にこの胸が苦しくなる。
 __私はやっぱり秋雄がいないとダメなんだ。

「秋雄は死んでも尚、私に色々なことを気付かせてくれる。私は秋雄でなければダメなの」

「……夏実」

 啓太は、まるで現実に引き戻すようにこの手を握るけれど私はそっと引き離す。

「……ごめん。私には、やっぱり覚悟がない。秋雄のいない世界で生きる覚悟が」

 幸せになる前に、まず生きていく覚悟ができていなかった。だから結婚や子供という責任から逃げてきた。

「そんな自分を騙して奮い立たせるのは疲れた。私は、秋雄と一緒じゃなきゃダメ。秋雄のいる、この場所じゃなきゃダメなの」

「でも、その人はもういない」

 冷静な声が風と一緒に私の頬をそっと撫でる。私は思わず笑いながら秋雄からもらった指輪をそっと撫でた。