家に帰ると、すぐに真由からもらった真新しいキャラTシャツに高校時代の小豆色のジャージ。ウェストポーチに首には手拭いを巻いた。
 農園から戻ってきた啓太は私の姿を見るなり訝しげな顔をした。

「……その格好」

「一緒に来て欲しい場所があるの」

 返事も待たずに玄関を出ると啓太は恐る恐る後をついてくる。農園で後片付けをしていた両親は私の格好を見ては苦笑していた。
 無言のまま二人で農園を出ると国道を真っ直ぐ進み秋雄の家の角を曲がる。そこにある裏山は昔からよくみんなで遊んでいた場所だ。
 秋雄を筆頭に男の子達が秘密基地を造って、私と真由はその中でよくお茶をした。あの頃は、この辺りに喫茶店もなく秘密基地で色々なことを語り合うことが楽しみだった。
 キラキラと輝いていた日々は蟀谷を伝うこの汗のように、地面に落ちては滲み消えていく。

「両親に会う時には着替えるよな?」
 
 心配そうな顔をする啓太に思わず苦笑する。
 この格好は昔からのお気に入りの服装だ。秋雄は密かにお揃いで買っては、おばさんに見せびらかしていた。
 __歳相応の格好。
 __歳相応の身だしなみ。

「……大人はつまらない」

 だけど、つまらない大人になるかならないかは自分次第。
 __ならば、私はどんな大人になりたい?
 立ち止まる私に、つられて足を止めた啓太は目の前の光景に口を閉じる。
 裏山を登った一角には北村家先祖代々のお墓が立っていた。ここに来るのは何年ぶりだろうか。まさか秋雄に会いに来ることになるとは、あの頃の私は思ってもいなかった。

「私、ここに来るまで凄く緊張した。でも、来てみたら大したことなかった」

 記憶の中のまま立派な黒い光りを放つ墓石。変化したのは側面に秋雄の名前が彫られていること。