__努力。
 真由の表面だけを見て僻んでいた自分が恥ずかしい。真由は幸せになる為の努力を今もしている。
 幸せの裏には、それぞれの苦悩があることを未熟な私は理解できていなかった。

「でも人は無い物ねだりだからさ。たまに独身だったらどうなってたかなー。なんて妄想したりするよ。今日も実はパートの面接なんだ。マオと少し離れたいっていうか」

「え?」

 驚いて思わずハンドルを握る真由の横顔を見つめる。

「私、なかやか子供ができなくて苦労したんだ。佐藤とはそれで離婚間近までいって。なのにマオが生まれたら今度は自分の時間も欲しいって、自分勝手だなって悩んでたんだけど。有難いことに佐藤も何事もバランスが大事ってパートすることを認めてくれたしさ。向こうのばーば。佐藤の親も協力的で感謝してるんだ」

 順風満帆そうな二人が過去にそんな問題を抱えていたことも。真由自身が今こうして悩んでいることも。私は知らずに自分のことばかり考えていた。
 __人には人の数だけ苦悩がある。
 表に出さないだけで、みんな幸せを掴み守る為にもがき苦しんでいる。
 __ならば私は?
 __幸せになる為に、どんな努力をしてる?

「その指輪、可愛いね」

 真由が微笑みながらチラッと私の左手薬指に視線を滑らせる。

「実は秋雄の勉強机から出てきたプレゼントだったの」

「え! それって、時を超えたプロポーズだ!」

「プ、プロポーズ?」

「だって、秋雄は指輪を贈るのは将来一緒にいたい思う人にだけだって話てたから」

 __秋雄からのプロポーズ。
 思いもよらぬ言葉に驚いていると、いつの間にか駅前のロータリーに辿り着いていた。

「東京にはいつ戻る?」

「今日の夕方には実家を出ると思う」

 啓太の実家に寄ったら、いつ東京に戻れるかは未定だ。