「……秋雄」

 大切な名前に想いとに涙が溢れ出す。
 答えは、もうとっくに出ている。だけど、それを認める覚悟がなくて一人勝手に悶々としてきた。
 __いつだって自分を苦しめているのは弱い自分だ。
 ズブズブと自己嫌悪の沼に堕ちてしまう前に立ち上がると、デニムとTシャツに着替え首に手拭いを巻く。そして、昨日置いてきたままの自転車を徒歩で駅まで取りに行くことにした。
 朝の爽やかな風の中、腕を振って歩いていると少しだけ心が軽くなる。しかし、すぐにへばってしまった私は犀川の土手に座り込んだ。

「……はぁ」

 昔は夏だろうと容易に歩くことができた。けれど今ではたった十分で限界だ。
 ポシェットからペットボトルの水を取り出すと、頭を持ち上げた感情と共に勢いよく飲み干す。こうして私は、自分の機嫌を取りながら生きていかなければならない。堕ちていかないように。沈んでいかないように。
 もう秋雄がいた時のように、自然と息をするかのように生きることは難しい。雲一つない青空をぼんやりと眺めていたら、軽快なクラクションの音が聞こえた。

「夏実ー! 何してるのー?」

 起き上がると土手の上に停まった白いワゴン車の窓から、真由が身を乗り出し手を振っている。

「休憩してた」

「休憩? どこか行くなら乗せてくよ?」

「あ、だい……」と、口にしかけた言葉を飲み込んだ。
 __大丈夫。
 秋雄を失ってからの私の口癖だ。
 一人でも生きていけると自分自身に思い込ませる為に、誰かに頼ることを避けてきた。そうしているうちに、いつか本当に強くなれると思っていたけれど幽霊の秋雄に教えられた。
 __私は一人じゃない。
 見えない所で色々な人達の想いに支えらていた。