「そもそも、私に霊感なんてないよ」

「霊感じゃなく波長の問題らしいから」と、笑いながら言った啓太の言葉に少し考える。

「じゃあ、もしも霊感のない私が幽霊を見たらそれは波長が合ってるってこと?」

 私と秋雄は生きている時は性格も考え方も正反対だった。でも波長というものは似ていたりするのだろうか。

「かもね。それか相手の恨みや念が強いとか?」と、少し声を落とすと啓太は鬱蒼とした木々から覗くお月様を見上げる。
 __念。
 __恨み。
 物騒な言葉に心臓がドクンと大きく跳ねる。
 それは奇跡とは程遠い。だけど秋雄がもう一度現れた意味が、それなら理解できるような気がした。

「夏実!」

 薄らと見える家の明かりの方から私を呼ぶ母の声が聞こえる。

「どうしたの!」

「大変よっ! __っ!!」

 返事をすると農園には母の悲しい言葉が響いた。
 啓太と顔を見合せると私達は走って家まで戻る。そして自分の部屋に飛び込むと水槽を覗き込む。

「……秋雄」

 朝は元気に泳いでいたはずなのに、水面に力なく横たわりプカプカと浮いていた。

「さっき、たまたま覗いたら……」と、言い淀む母に頷きながら微笑む。

「農園に埋めてもいい?」

「ええ。勿論」

 私は秋雄の身体をティッシュで包むと、一人スコップを片手に農園を歩く。場所はすぐに決まった。これから植樹をする為に空けてある場所に小さな穴を掘った。そして秋雄をそっと埋めて目印に石を置いた。
 今度、この場所に秋雄を偲ぶ為の林檎の木を植えよう。