「私は幽霊だろうと秋雄に側にい欲しい。だから、側にいてくれていると信じることにしたの。信じれば、それは私にとって現実になる。そうすれば私は今日も明日も生きていけるの」

 それは、おばさんが生きる為に見つけた答え。いや、見つけてくれた答えだと思う。
 息子を喪った母親の気持ちは想像を絶する。それこそ色々なことを考えたに違いない。だけど、こうして生きる道を選んでくれた。その選択に私は救われている。ならば……。

「……秋雄の分まで生き抜く」

 静かな部屋に自分の声が真っ直ぐと伸びる。
 他の人の気持ちを無視して彷徨うのはやめにしよう。私も生きるための答えを見つけよう。生きるために腹を括ろう。
 消えてしまった秋雄に懺悔も償いもできない。だけど遺された人達にならばできることはあるのかもしれないから。

「ええ。生き抜いて幸せになって」 

 おばさんは心の底から嬉しそうに微笑む。
 私は不幸だろうと生き抜くことだけは諦めない。そんな自分になろう。

「その指輪はこの部屋に置いて行って? 処分に困るだろうし」

 私に気を遣ってくれたのだろう。しかし答えは決まっていた。

 “__ナツは、この瞬間どうしたいんだよ?”
 正否も善悪も関係ない。自分に素直になるだけ。決めるのは私だ。

「……貰ってもいいかな? 凄く気に入っちゃって」

 すると、おばさんは少し困ったように微笑む。

「……ありがとう。あの子も喜んでると思う」

 正直、秋雄がこの答えをどう捉えるかはわからない。だけど九年前の秋雄が。恋人同士になった瞬間の秋雄が。私に選んでくれた最初で最後のプレゼントだ。そんな大切な物を手放す選択肢があるはずなどない。