「良かったら、久しぶりに部屋にも行ってあげて?」

 そう言ったおばさんは寂しそうに俯く。

「実は、少しづつ片そうと思ってるの。来年で十年になるでしょ? 調度良い区切りになるかなって」

 一つに纏められた髪からハラハラと落ちる白髪の数が時の流れを意味している。私もおばさんも九年分の歳をとった。いつまでも過去に縛られているわけにはいかない。

「身体が動くうちに片付けておかないとね」

 私は頷くこともできずに、ただ話を聞いていた。
 秋雄が小さい頃に父親は病気で亡くなっている。そして秋雄もいなくなってしまった現在、おばさんはこの家で一人で暮らしているけれど将来のことを考えると家を手放す選択肢も視野に入れているのだろう。
 時は止まってはくれないから。生きている限り、未来を見据えた答えを出さなければならない。

「もし欲しいものがあったら貰ってちょうだい? あの子も喜ぶと思う」

 おばさんはあの日と同じように優しく微笑む。
 __秋雄が白い骨となってこの家に戻ってきた日。
 私は形見分けを何一つ手に取ることができなかった。
 冷たくなった秋雄の姿をこの目でしっかりと見た。葬儀にだって参列した。なのに、どうしても形見だけはもらえなかった。

 だけど現在の私にとって秋雄と過ごした日々は大切な「過去」の思い出。ならばいつか処分されてしまう前に、何か一つぐらいは手元に残しておきたい。そう思った私は静かに頷く。
 するとおばさんは嬉しそうに微笑みなが秋雄の部屋まで案内してくれた。