「夏実ちゃん。良かったら飲んで?」

 部屋に戻ってきたおばさんがホットココアの入ったマグカップを差し出す。途端に部屋に広がる甘い香りに波立つ心がゆっくりと静まっていく。
 秋雄と喧嘩していつも私が泣くと、おばさんは甘いココアを淹れてくれた。

「夏実ちゃんのせいじゃないから。絶対に自分を責めないで」

 お礼を伝えココアの入ったマグカップを両手で包み込むと、おばさんは隣に腰を下ろしこの背中を優しく撫でてくれる。

「……でも、どう考えても私のせいだから」

 箱の中で光り輝くクローバーは幸せの象徴なのに、私の幸せは遥か遠くに消えてしまった。

「私は夏実ちゃんのせいだなんて思ってない。秋雄だって同じことを言うはずよ? だけど夏実ちゃんが自分を責め続けるのならば……」

 一度、言葉を切るとおばさんは私の両肩を掴む。そしてこの目を真っ直ぐ見つめた。

「あの子のことは忘れていいから」

「……忘れる?」

 どうして秋雄と同じ言葉を言うのだろうか。黙って考え込む私におばさんは優しく微笑む。

「自分を許さない限り前へは進めない。でも、もしも許せないのならば忘れたらいい。夏実ちゃんは、これからを生きていかなければならない。幸せにならなければならない。その為なら秋雄を忘れることだって一つの術なんだから」

 “__忘れろ”
 あの瞬間、その冷たい言葉に私はとても傷付いた。だけど今はその言葉すら秋雄の優しさだったことを知る。
 もしかしたら生徒手帳を捨てろと言ったのも、このプレゼントを見つけたら私がより自分を責めて前に進めないと思ったからなのかもしれない。