ゆっくりとリボンの紐をほどくと箱をそっと開ける。するとキラキラと光る緑色の光が目に染みた。
 細いシルバーの指輪に、いくつも散りばめられた緑色の四つ葉のクローバー。指輪の横に添えられた小さな二つ折のカードには、秋雄からの言葉が遺されていた。
 “__一日遅れだけれど、お誕生日おめでとう。ナツ。生まれてきてくれてありがとう”
 秋雄は私の誕生日を忘れてなんかいなかった。ただ最初から翌日にプレゼントを渡そうと決めていただけ。だけど、何故当日ではなく翌日に……。
 そこで、さっきぶーちゃんから聞いた話を思い出す。

 九年前。秋雄はぶーちゃんと真由と佐藤を集めてお祝いをしようとしてくれていた。それが誕生日の翌日だった。ならば、その時にサプライズでプレゼントを渡そうと考えていたのではないだろうか。だからあの日、誕生日の話題には触れずに過ごそうとしていたのではないだろうか。
 なのに、幽霊の秋雄は忘れていたと嘘をついた。
 
 “__忘れるなんて酷いよ!私は秋雄の誕生日を覚えてるのに!”
 “__忘れてないって!”
 “__ナツ!ちょっと待ってろ!”

 急いでどこかへ消えて行く背中。バラバラだった過去の映像が一つの答えを導きだす。

「……この指輪を取りに家まで戻ろうとしたの?」

 私の問いかけに答えてくれる人はいない。だけどきっと、秋雄は誕生日を忘れていないことを証明しようとした。その為にはこの指輪が必要だった。だから……。

「……うっ。ごめんね」

 真実を知れば知る程に自分が生まれてきた罪を知る。
 “__生まれてきてくれて、ありがとう”
 私には、その言葉を受け取る権利はない。
 同じ場所に同じ時間に生まれて。そして出会ってしまったが故に秋雄が死ぬことになったのだから。