秋雄は、もし生きていたとしても私達には未来がなかったと言っていた。あの瞬間だけを見て生きていたから。そう言っていたくせに……。
__ナツと結婚して小林農園を継ぐ。
大胆なのか繊細なのかわからない文字。秋雄が描く未来には確かに私も存在していた。
「……何でよ。バカっ」
私達には確かな未来があった。私達には確かな想いがあった。
なのに「忘れろ」だなんて本当に秋雄の望んでいたことなのだろうか。
「夏実ちゃん?」
振り返るとおばさんが驚いた顔をしていた。私と開いた引き出しを交互に見つめながらゆっくりと近づいてくる。
「鍵があったのね」
「……秋雄の生徒手帳に」
「そうだったの」
おばさんは床に落ちた雑誌と進路調査票の紙を拾い上げるとそっと微笑んだ。
「あの子の夢はブレなかったのね」
「……え?」
「ナツと結婚して林檎農園を継ぐ! 小さい頃からの、あの子の夢よ?」
ずっと側にいたはずなのに。誰よりも近くにいたはずなのに。私は秋雄の夢を一度も聞いたことはなかった。
「開けっ広げなのか秘密主義なのか。本当にわけわからない子だから」と、おばさんはクスクスと笑っている。
確かに今も昔も秋雄が何を考えているかわからない。いや。正確にはわからなかった。わからないまま私達は別れて、遺された私には大きな後悔だけが残った。
「あら?」
振り返ると引き出しから何かを取り出したおばさんが私の顔を見て「ふふ」と、柔く微笑む。
「どうぞ。お誕生日おめでとう。夏実ちゃん」
同時に息子を失った日だというのに、私への祝福の言葉と共にそっと優しく抱き締めてくれる。そして、この手の中に小さな白い箱を残して部屋から出て行った。
“__to natsumi”
赤いリボンに金色の文字で書かれた名前。秋雄の机から出てきたのは私へのプレゼントだった。
__ナツと結婚して小林農園を継ぐ。
大胆なのか繊細なのかわからない文字。秋雄が描く未来には確かに私も存在していた。
「……何でよ。バカっ」
私達には確かな未来があった。私達には確かな想いがあった。
なのに「忘れろ」だなんて本当に秋雄の望んでいたことなのだろうか。
「夏実ちゃん?」
振り返るとおばさんが驚いた顔をしていた。私と開いた引き出しを交互に見つめながらゆっくりと近づいてくる。
「鍵があったのね」
「……秋雄の生徒手帳に」
「そうだったの」
おばさんは床に落ちた雑誌と進路調査票の紙を拾い上げるとそっと微笑んだ。
「あの子の夢はブレなかったのね」
「……え?」
「ナツと結婚して林檎農園を継ぐ! 小さい頃からの、あの子の夢よ?」
ずっと側にいたはずなのに。誰よりも近くにいたはずなのに。私は秋雄の夢を一度も聞いたことはなかった。
「開けっ広げなのか秘密主義なのか。本当にわけわからない子だから」と、おばさんはクスクスと笑っている。
確かに今も昔も秋雄が何を考えているかわからない。いや。正確にはわからなかった。わからないまま私達は別れて、遺された私には大きな後悔だけが残った。
「あら?」
振り返ると引き出しから何かを取り出したおばさんが私の顔を見て「ふふ」と、柔く微笑む。
「どうぞ。お誕生日おめでとう。夏実ちゃん」
同時に息子を失った日だというのに、私への祝福の言葉と共にそっと優しく抱き締めてくれる。そして、この手の中に小さな白い箱を残して部屋から出て行った。
“__to natsumi”
赤いリボンに金色の文字で書かれた名前。秋雄の机から出てきたのは私へのプレゼントだった。