「着いたぞ」

「ありがとう! また連絡する!」

「おう!」

 ぶーちゃんに礼を告げると車から飛び降りる。北村家のインターホンを押すと、出てきたおばさんに事情を説明し私は秋雄の部屋に飛び込んだ。

「……ごめんね。秋雄」

 本人の許可もなく、勝手な行動をとっていることに後ろめたさを感じながらもポケットから生徒手帳を取り出す。そしてカバーの裏に挟まっていた小さな鍵を手にすると、一番上の引き出しの鍵穴に差し込んだ。ピッタリと嵌まった鍵をゆっくりと回すと、静かな部屋にカチャリと真実の扉が開く音がした。

「……何よ、これ」

 引き出しを開けると中からは一冊の本が出てきた。秋雄がいつも読んでいた文庫本よりも大きく厚みは薄い。それは専門書ではなく園芸コーナーに置かれているような雑誌だった。

「……初心者でもわかる林檎の育て方って」

 引き出しの中身を尋ねた時、秋雄は「将来やりたいこと」の資料をしまってあると言っていた。それは駅前の甘味屋さんに行った帰りに聞いた言葉だ。何の本を買ったか尋ねたら秋雄は「将来の夢に必要な本」だと答えた。
 私は何も知らなかった。九年前のあの時に、そんな本を買っていたことも。そして秋雄の将来も……。
 ページを捲った瞬間、パサッと足元に一枚の紙が落ちた。栞の代わりに挟んでいたのだろう。「進路調査票」と、書かれた紙には私のよく知る字で優しい未来が描かれていた。

「……嘘つき」

 その場に膝から崩れ落ちる。涙は止めどなく溢れ呼吸は乱れ身体は震えだす。