無理もない。秋雄が死んで、それどころではなかったのだから。だけどおかしい。さっき幽霊の秋雄は私の誕生日を忘れていたと言っていた。

「秋雄は私の誕生日を当日も覚えてたの?」

 もしかしたら当日になって忘れた可能性もある。何せ、自他認める程の忘れっぽい性格だ。

「勿論。当日に自転車でお花市に向かう秋雄に会ったんだよ。そうした「明日、よろしく」って」

「……ちょっと、待ってよ」

 ついに頭が混乱してきた私は眉間を押さえながら俯く。
 “__お、おう。覚えてるぞ?”
 九年前。明らかに動揺している態度に誕生日を忘れられたと思った。だけど秋雄は……。
 “__忘れてないって!”
 確かに戸惑いながらもそう答えたことは覚えている。でも幽霊の秋雄は「忘れていた」と、認めていて……。唸り出した私にぶーちゃんは「どうした!」と、慌て出す。

「……なら、忘れたっていうのは嘘なのか。でも、これだって……」

 ポケットから秋雄の生徒手帳を取り出す。その瞬間、私の足元に何かがボトリと落ちた。

「それ秋雄の。ってか、今何か」

 私とぶーちゃんがこの手元から落ちた「何か」に、視線を滑らせたのは同時だった。
 沈黙が流れる車内。忙しなく動き出した脳裏におばさんの言葉が過る。