「……秋雄が言ったんじゃない。「理解したい」って気持ちが大事だって。だから私は秋雄のことを」

「今更、遅いんだよ」

 冷たい口調でこの想いをはね除ける姿に、頬を濡らす涙も乾いていく。

「今日が最後なのに分かり合っても意味がないだろ?」
 __最後。
「俺達は、もう二度と会えない。今日で、お別れなんだぞ?」
 __お別れ。
「なら、お互い忘れた方が早い。忘却こそ人間に備わった唯一の癒しのシステムなんだ。忘れることがお互いの癒しになる。もう過去の俺達に捕らわれ続けるのはやめにしないか?」
 __過去。
 途端に目の前にいる秋雄が霞んで見える。こうして見つめ合っていても、私達の間に流れる九年の歳月を埋めることはできない。幽霊の秋雄と、まるで一からやり直しているつもりでいた自分の愚かさに気付かされる。
 __今更。
 結局、その言葉に尽きるなんて振り出しに戻ってしまった。

「俺は、早く忘れて成仏したい」

 真剣な眼差しがこの心を射貫く。

「俺の生徒手帳も捨ててくれ」

 “__……でも、ナツに持っててもらえて良かった”
 そう笑っていたのにどうして?

「じゃあな」

 私の言葉を待つこともなく秋雄は素っ気ない挨拶を告げる。そして、こちらに背を向けるとキラキラとした眩い光に包まれ消えていく。
 私は、その場にただ立ち尽くす。
 二度目の別れも残酷で後悔しか残ってはいない。