私は唇を噛み締めながら北村家の先祖代々の仏壇の前に座る。秋雄の遺影は十二歳の私がスマホで撮った何気ない一枚。おばさんが一番秋雄らしいと選んで現像した。
秋の色に似た濃い紅色の髪。少しつり目がちな瞳。笑うと覗く八重歯。色褪せぬ姿に向かってお線香をあげては手を合わせている自分は間違いなく秋雄の死を認めている。なのに、写真から目を逸らすと後ろに座るおばさんに向かって口を開く。
「……実は今日、報告があって。昨年婚約したんです」
「そうなの!? おめでとう!」
この手を両手で強く握ると、まるで自分のことのように喜んでくれる。その姿にホッとしながらも「現実は変わらない」と、もう一人の私が囁く。
__秋雄は私のせいで……。
「わざわざ報告してくれるなんて本当に嬉しい! きっと秋雄も喜んでいるはずよ! あの子の分まで幸せになってね!」
__時は間違いなく進んでいる。
それは遺された人の心も同じ。おばさんは、母の口から私の婚約のことを聞いても喜んでくれたに違いない。もしも、結婚の報告をしたらそれこそ泣いて喜んでくれるのだろう。
なのに私は、まだあの場所で足踏みをしているように思う。
__秋雄の死を乗り越えたはずなのに。
__もう、秋雄がいなくても大丈夫なはずなのに。
秋の色に似た濃い紅色の髪。少しつり目がちな瞳。笑うと覗く八重歯。色褪せぬ姿に向かってお線香をあげては手を合わせている自分は間違いなく秋雄の死を認めている。なのに、写真から目を逸らすと後ろに座るおばさんに向かって口を開く。
「……実は今日、報告があって。昨年婚約したんです」
「そうなの!? おめでとう!」
この手を両手で強く握ると、まるで自分のことのように喜んでくれる。その姿にホッとしながらも「現実は変わらない」と、もう一人の私が囁く。
__秋雄は私のせいで……。
「わざわざ報告してくれるなんて本当に嬉しい! きっと秋雄も喜んでいるはずよ! あの子の分まで幸せになってね!」
__時は間違いなく進んでいる。
それは遺された人の心も同じ。おばさんは、母の口から私の婚約のことを聞いても喜んでくれたに違いない。もしも、結婚の報告をしたらそれこそ泣いて喜んでくれるのだろう。
なのに私は、まだあの場所で足踏みをしているように思う。
__秋雄の死を乗り越えたはずなのに。
__もう、秋雄がいなくても大丈夫なはずなのに。