「あの日、私は酷いことを言った。ごめんなさい」

 __九年前の今日。私達は喧嘩をした。
 付き合って初めての誕生日。それも当日に彼氏とデート。私は完全に浮かれていた。なのに、いつになっても何も言ってくれない秋雄に……。

 “__今日、誕生日なんだけど”
 “__お、おう。覚えてるぞ?”

 動揺した態度は忘れていたと言われているのと同じだった。悲しかった。腹が立った。
 まるで自分の存在が軽視されているような気分になった。

 “__忘れるなんて酷いよ!私は秋雄の誕生日を覚えてるのに!”
 “__忘れてないって!”
 “__秋雄の嘘つき!秋雄なんて大嫌い!”

 目を閉じると、まるで昨日のことのように蘇る。

 “__ナツ!ちょっと待ってろよ!”

 駆けて行った秋雄の背中。遠くから聞こえたブレーキ音。人々の悲鳴。景色がノイズがぐちゃぐちゃに混ざりあい暗転する。

「……私が秋雄を殺した」

「だから違う。ナツのせいじゃ」

「どう考えたって私のせいなんだよっ!」

 涙混じりの叫び声に行き交う人々が私の顔を怪訝そうにチラチラと見ている。一瞬目を見開いた秋雄の顔が、泣いているような怒ったような顔に変わっていく。

「俺は、お前のせいだなんて一度も思ったことはない」

「秋雄がどう思おうと現実はそうなの」

「ナツ!」

 大きな声にビクッと肩を上げると秋雄は冷静さを取り戻すように、一度大きく息を吐き出した。