「さっき、おばさんがお花を買ってたよ」

「どんな花?」

「秋雄にピッタリな花だった」

「そりゃあ、嬉しいな」と、笑う秋雄はきっとみんなが未来に向かって歩いて行くことを望んでいるのだろう。

「ナツは俺に、どんな花を買うんだ?」

「買わない」

「ひでー。マジ祟る!」

 花を手向けろとせがむ幽霊は何故か楽しそうに笑っていた。
 __私達が会えるのは今日が最後だというのに。

「焼きそば買ってくる。あと林檎飴も」

「おう。俺は焼きもろこし!」

「わかった」

 せっかく秋雄に会えたのに、いてもたってもいられずに逃げ出すように屋台へと向かう。
 __寂しい。離れたくない。
 振り返ると人混みを見つめながら佇む秋雄は、今何を想っているのだろうか。

「ナツー。早くー」

 こちらを振り返るとニカッと笑う顔は昔と変わらない。
 生きることは変化すること。それはどうしようもないことだ。ならば考えたってしょうもない。クヨクヨするぐらいならば残された時間を大事にしないと。

「ちょっと、待っててー」

 気を取り直した私は、屋台で食べ物を買い集めると秋雄の元へと急いで戻った。

「旨そー!」

「美味しいよ」

 近くの縁石に腰を下ろし焼きそばを頬張る私を秋雄は羨ましそうに眺めている。
 屋台の焼きそばは、とても美味しい。だけど隣に秋雄がいるから尚更美味しいのだ。

「ねーねー。あの、黄色い熊のぬいぐるみがいい」

 顔を上げると目の前を十代のカップルが通り過ぎていく。白地に淡い桃色の花があしらわれた浴衣を着た彼女は、紺色の浴衣を着た彼の腕を掴むと少し離れた場所にある射的の幟を指さしながら笑っている。

「わかった。やってみるか」

「やったー!」と、小さく跳ねる彼女を彼は愛しそうに見つめていた。