__八月十二日。
 夕方になると、私は髪を一つに纏め薄化粧を施し白のTシャツにデニムという格好に着替えた。
 今までの私ならば到底お洒落だとはいえない服装も、見慣れてしまえば悪くはない。むしろシンプルで動きやすく気に入っている。

「行ってきます!」

「夏実。お花をお願いね」

「うん」

 農園で仕事をしている両親に手を振ると、ぎこちない笑みを浮かべる啓太に私もぎこちなく微笑む。
 昨日から気まずい雰囲気のまま、今日になってしまった。けれど全ては逃げてばかりいた弱い私の責任。
 そんな自分とは今日でお別れだ。

 自転車に跨ぐと、いつもの雄叫びを上げながら農園のでこぼこ道を下る。国道を全速力で走っていたら後ろから声が聞こえた。

「よ! 林檎娘!」

「あ、ぶーちゃん! ちょっと頑張ってくるから!」

「お、おう? わかんないけど頑張れ!」

 擦れ違った軽自動車の窓から、ぶーちゃんがエールを送ってくれる。

「ナッちゃんだー!」

「夏実! 買い物?」

「ちょっと、戦ってくる!」

「え、戦い!? が、頑張って!」

「頑張れよ!」

「ナッちゃーん。がんばれー」

 大きな橋を渡ると川で遊んでいたマオちゃんがこちらに両手を振ってくれる。真由と佐藤も力強い声でこの背中を押してくれる。
 __私は一人じゃない。
 いつもより軽く感じるペダルを漕ぎながら私は長野駅へと向かった。