「トキメキだけでお腹一杯にはならないからね。子供とか老後のこととか考えないといけないし」

「……大人って、つまんねー」と、お決まりの台詞に苦笑する。だって、それが「現実」なのだ。

「じゃあさ、例えば俺が十二歳の姿のまま生きて戻ってきたらどうする?」

「嬉しいに決まってるでしょ」

 突然の質問に聞くまでもないだろう。と、即答すると秋雄は「そうじゃない」と首を横に振る。

「ナツは今でも俺のことが好きだって言ったよな? でも経済力がないなら一緒にはいられないんだろ?」

 当然、先程の話からしたらそうなるはずなのに……。
 
「私が養う」

「言ってることが違うじゃねーかよ」

「本当だ」

 自分でも驚く程に、私は秋雄が相手だと単純な答えを出してしまう。

「だって、秋雄とただ一緒にいたいから」

 もう子供じゃないのに。そんな気持ちだけでは生きてはいけないとわかっているのに。

「恋は子供がするものって決めつけるなよ。単純だけど「ただ一緒にいたい」って気持ちの延長線上に「一生」があるんじゃねえの?」

 そう言いながら秋雄が指差した方向には、父と一緒に農園の林檎を収穫している啓太の姿があった。

「あいつは、お前と死ぬまで一緒にいる相手なんだろ? だったら今の言葉は、あいつに言ってやれ」

 __ただ一緒にいたいという気持ちが永遠へと繋がる。
 ならば私と啓太は……。ぼんやりと眺めていると、遠くから手を振る姿に思わず目を逸らす。

「ナツ。お前は間違ってるよ。現実を連呼しながら、お前が一番現実を見てない」

 秋雄はそう言い捨てると、逃げるように姿を消した。