「……好きな奴の大切なものは俺にとって大切だし、好きな物は俺にとっても好きなものなんだよ」

 カッと顔が熱くなる。鼓動が大きく跳ね、ザワザワと全身をこそばゆさが駆け巡る。だけど真っ直ぐな瞳から目を逸らさない。この感情からも。
 いつだって秋雄は、私に大切なことを教えてくれるから。
 __恋は、そういうものだった。

「私も秋雄が好きなナウマン象は今でも好きだよ?」

 素直に告げると秋雄もどこか恥ずかしそうにはにかんでいる。
 小さい頃。野尻湖にあるナウマン象博物館によく連れて行かれた。正直興味はなかったけれど、目を輝かせる秋雄の顔が見たくて結局は毎回一緒に行っては、そのうち自分もキーホルダーを身につける程には愛着が湧いてしまった。
 __好きな人と同じ景色が見たくて。
 __好きな人と同じ気持ちになりたくて。
 いつから私は、そんな大切な気持ちを忘れてしまったのだろう。
 __他人は他人。自分は自分。
 大人になるにつれて染み付いた考えは、個々を尊重するように見せかけて度が過ぎるとただの無関心に過ぎない。

「……恋してたな。あの頃の私は。それが今は誇らしいや」

 秋雄と出会って。恋をして。秋雄を喪って。絶望を味わって。
 恋をした時間を後悔したこともあったけれど、悲しみが幸せだった記憶を奪い去ることはできない。幸せな瞬間は、この心にいつも輝いていた。
 それが、たまに辛くもあったけれどもう二度と戻らない過去の私はちゃんとその瞬間を大事にしていた。あの瞬間にしか味わえない「恋」の醍醐味をたっぷりと味わっていた。

「今は?」と、首を傾げる秋雄に思わず苦笑する。

「恋は子供がするもの。大人になるとトキメキなんかよりも大事なことがある」

「例えば?」

「経済力」

 すると口元を歪めて変な顔をしている。