「秋雄の髪の色に似てたから」

 素直に答えると母は「そう」と、小さく頷く。正直、今は秋雄の話題を避けたい。だけど母はまた口を開く。

「秋雄のこと啓太君には?」

「……いや」

「それは話せないの? それとも話さないの?」

 核心をつく言葉に思わず押し黙る。
 __話せない。
 この心は未練タラタラなのだ。

「プロポーズの答えはちゃんと出すから」

「え?」

 突然、顔を上げた母はポカーンと口を開けている。

「電話する仲なら聞いてるんでしょ? だから結婚は焦らなくていいって」

 すると、大きな溜め息を吐きながら蛇口を捻り水道の水を止めた。

「……聞いてないわよ。ただ、そろそろかなと思って」

 どうやら私は墓穴を掘ったようだ。
 母はこちらをジッと観察するとゆっくりと言葉を落とす。

「「おめでとう」とは言えないみたいね」

「そんなことは……」と、言い訳を考えようとしている自分に気づく。もう、嘘はつきたくない。

「秋雄のこと、まだ好きなの」

 意を決してこの想いを口にすると、母は表情を変えることなく「それで?」と、続きを求める。

「だけど啓太への気持ちも無いわけではないし、それなりの幸せも手にいれたい。狡いでしょ?」

「それを狡いか判断するのは啓太君でしょ? でも、まあ。自分の気持ちを吐き出せるようになったのは進歩なんじゃない?」

 てっきり呆れられると思っていたのに、ポンポンと頭を優しく撫でられる。懐かしい温もりに思わず泣きそうになって俯くと、母は優しい声で言った。

「親にすら何も言えなかったんだもの。他人に胸の内を吐き出すなんてもっと難しい。だけど今の夏実なら少しづつ話していけるんじゃない? それからどうするかは二人で考えなさい」

 確かに今まで私は閉ざしていた心の内を、母にすら話すことはできなかった。だけど今は違う。
 それは紛れもなく秋雄のお陰だ。