「夏実。朝食はどうする?」

 私が起きていることに気づいていたのか啓太が部屋に入ってくる。いつもならまだ寝ている時間。しかし珍しく起きている理由は聞いてはこない。
「食べる」と、だけ伝えると啓太は微笑みながら頷く。しかしすぐに緊張した面持ちになる。

「……あのさ。明後日、実家に帰ろうと思ってるんだけど夏実も一緒に来てもらえないかな?」

 突然のことに瞬きを繰り返していると「久しぶりに両親も夏実に会いたがってるから」と、言った。
 啓太の両親に会ったのは婚約の挨拶以来だ。それからは、いつも啓太一人が実家に戻りその帰りに私を拾い東京に帰るのが定番になっていた。なのに……。

 “__秋頃、籍を入れないか?”
 答えを急かされている気分になる。
 いや。実際にいつまでも引き延ばすわけにはいかない。でも、秋雄との別れを目前にした今の私には考える余裕などない。
 迷っていると啓太は「考えておいて」と、言い残し部屋から出て行った。
 私はまた溜め息を吐き出す。
 せめて明日までは秋雄のことだけを考えていたい。けれど、それは逃げていることと同じなのだろうか……。

 朝食を済ませると農園へと出かけていく父と啓太を見送る。そして私は母の片付けを手伝う。

「そういえば、どうして金魚の名前を秋雄にしたの?」

 洗い物をしている母がふいに尋ねてくる。