「ただいま」

「おかえり」

 玄関まで出迎えてくれた啓太は私の顔を見るなりそっと微笑む。

「楽しかったみたいだね。夏実の顔に、そう書いてあるよ」

「うん。楽しかった。これは、お土産」

 袋を手渡すと、子供のように中身を覗いてる姿を見ながらふと考える。もしも私が地元に残りたいと言ったなら啓太はどうするのだろうか……。

「ありがとう。みんなで食べよう」

 背中をそっと押す手の温もりがこの思考を冷ます。
 私は一体何を考えているのだろうか。
 この歳から地元で職を見つけることも、一から婚活することも簡単なことではない。それこそ農園を継ぐしか……。と、そこで大きな溜め息が漏れる。
 “__ナツはこういう温かい場所で生きるべきだ”
 実際は現実を生きるよりも理想の世界で生きる方が難しいのかもしれない。

 その日の夜は、疲れていたのにあまり眠ることができずにいた。ベッドの上で目を閉じていると、いつしか朝になり啓太が起きる気配がした。部屋の扉が開き閉まる音を聞くと私は大きく息を吐き出す。

「……はぁ」

 身体が重い。心も重い。ゆっくりと起き上がると、すぐに机の中にしまっていた写真を取り出す。
 __あと、一枚。
 本来ならば今日も農園で会えるはずだった。けれど啓太がいるから秋雄が現れることはない。
 __会えるのは明日が最後。
 私は幽霊の秋雄と再会してから今日までの日々を思い返す。
 最初は本当に驚いたけれど、また会えたことがただ嬉しかった。しかし十二歳のままの秋雄と二十二歳になった私。越えられない壁が原因で言い合いになったこともあった。だけど私は幽霊の秋雄から沢山のことを教わった。

 “__……本当は一人じゃないのにお前の居場所だってちゃんとあるのに、自分から逃げて孤独になる道を選んでは欲しくない”
 “__選択肢は無限にある”