「大人も楽しそうだな」

 秋雄の言葉に私は気づかされる。
 「大人」がつまらないわけではない。東京で生きる為に「自分を殺していた私」がつまらない大人だったってことを。
 みんなの顔を見渡すと林檎ジャムの入ったおやきを、バクバクと人の目も気にせずに頬張るぶーちゃん。大口を開けて笑う真由。そして嬉しそうな顔で、見守るおばさん。
 __みんな、幸せそうな顔をしている。
 そして、その中で一緒に笑う今の私もきっとみんなと同じ顔をしているのだろう。

「ナツは、こういう温かい場所で生きるべきだ。選択肢は無限にある。またな」

 言いたいことだけ伝えるとパチリと弾けた光が空中に漂う。そしてキラキラと輝きながら秋雄はどこかへと消えていった。
 “__選択肢は無限にある”
 その言葉の意味を今の私は理解できる。前を向いて生きている限り可能性は生まれ続けるから。ならば私が、ここで生きる可能性もゼロではない。
 しかしこの歳で地元に戻ってきて何をして生きていくか。職はあるか。結婚はどうするか。途端に可能性がマイナスへと傾く。現実味のないものへと変化していく。
 __秋雄。現実は甘くないよ。
 私はそっと心の中で呟きながら、おばさんの作ったカボチャの煮付けの入ったおやきを頬張る。懐かしい味に何だか無性に泣きたい気持ちになった。