ずっと心の奥にしまっていた私は「秋雄」と、いう名前を口に出してはならないものにしていた。だけど思い出を共有してきた人達からしたら、その名前は常に近くにあった。それこそが、死者を偲ぶことだと今ならわかる。

「夏実。手が止まってるよ」

「林檎娘。真面目に作れー」

「夏実ちゃんの好きなカボチャの煮付けもあるから入れる?」

 自己嫌悪に陥る私を、みんながそっと引き上げてくれる。

「うん。カボチャおやきも作りたい」

 もう一人で心を閉ざしていたあの頃とは違う。
 __帰る場所がある。
 __みんながいる。
 それは秋雄が自から心を開くことを教えてくれたから、見つけることができた幸せだ。

「できたよー」

 真由の声にソファーから立ち上がったぶーちゃんは、和室の仏壇から取ってきた秋雄の写真をリビングのテーブルの真ん中に置いて満足そうな顔をしている。
 秋雄は、みんなの心の真ん中にいる。今、自室にいる本人に伝わっているだろうか。

「旨っ! 林檎ジャムのおやきって最高ー!」

「だろ?」

 ぶーちゃんの雄叫びに応えたのはここにいるはずのない人。驚いて振り返るとリビングの入り口には秋雄が立っていた。
「みんな老けたな」と、笑っているけど姿が見えるのも声が聞こえるのも私だけなのが寂しい。

「ナツ?」

 答える変わりに切れ長の目を見つめると、ふっと優しく微笑む。