次の日も農園の手伝いをする啓太は「いい運動になる」と、楽しそうにしていた。いつもよりも長く我が家に滞在しているのは、恐らくプロポーズの返事を待っているからなのだろう。理解しながらも答えが出ていない私は結局その話題を避けている。
 だからこそ、せめてもの罪滅ぼしのように午後の休憩に戻ってきた啓太を玄関で引き止める。

「これから、北村さんの家に行ってくる。私の幼馴染みの家なの」

「そうなんだ。夏実から友達の話を聞くのは初めてだ」

 微笑む顔を見ていたらもう、少しだけ自分のことを話そうと思った。

「本人は、もう亡くなってるの。色々あって、最近までは付き合いがなかったんだけど。今日は親御さんに会いに行ってくる」

「……そうなんだ。大丈夫?」

「うん」

 ただそれだけの会話でも自分からしたら相当な進歩だった。
 私は少し軽くなった心を乗せて自転車を走らせる。駅前のスーパーで、おやきの粉と小豆缶と野沢菜の漬け物を買った。そして北村家に辿り着くと躊躇することなくインターホンを押した。

「夏実です」

「いらっしゃい!」

 嬉しそうに迎え入れてくれたおばさんはすぐにお茶を出してくれる。

「暑かったでしょ。農園の方はどう?」

「この暑さのお陰で実りは良いみたいで」

 暫く他愛のない会話をしていると、おばさんは何か思いついたように「あ」と、小さく声を上げた。

「そういえば、夏実ちゃんに聞きたいことがあったのよ。秋雄の勉強机を片していたら一番上の引き出しに鍵がかかっててね。その鍵がどこにあるのか秋雄から聞いてなかったかしら?」

 記憶を遡ってみたが過去の秋雄とも幽霊の秋雄とも、その話をした覚えはない。

「ごめんなさい。私も聞いたことがないです」

「そう。正直、気になるけど見られたくないものが入ってるかもしれないし。そっとしておいてあげましょ」

 「ふふ」と悪い笑みを浮かべるおばさんに思わず苦笑する。
 確かに健全な男の子なら、そういう隠し事の一つや二つはあるだろう。