「幸せになれよ」

 微笑む秋雄の瞳には、どこまでも澄んだ青空が映っている。

「……この前の課題。私の夢の話だけど」

「おう」 

 こちらを振り返る秋雄にそっと微笑む。

「普通に結婚して、普通に子供を生んで、普通に幸せになりたい」

 一番の幸せは無理だから、結婚して「それなり」の幸せを手にいれたい。

「普通ばっかりだな」

「なら、秋雄が幸せにしてくれる?」

 何も知らずに笑っている秋雄に重くならない口調で本心を伝える。すると鋭い視線で咎められる。

「婚約者を泣かせるな」

 なんて普通は男に言うことだろう。と、思いながらこの心が熱を失っていくのを感じた。

「秋雄は私が結婚してもいいだね」

 切れ長の瞳には泣き笑いを浮かべた自分の顔が映る。
 恨んでよ。責めてよ。結婚するなって言ってよ。
 私はどこかで秋雄の気持ちを試している。

「結婚しろ」

 なのに秋雄はどこまでも冷静だ。

「嫉妬しないんだね」

「俺が好きなのは十二歳のナツだ」

「……酷いなー」

 そんなこと、わかっていたけれど直接言葉にされると傷つく。震える唇を引き上げてみたけれど果たしてちゃんと笑えているだろうか。なんて考えていると、この心を覗き込むように秋雄が真っ直ぐと私の瞳を見据える。

「ナツが好きなのも十二歳の俺だろ?」

「……その質問は狡いよ」

 だって、私は歳を取った秋雄を知らない。