「どこ行くの?」
気まずい雰囲気の中、昼食の冷やし中華を食べると逃げるように外に出る私を引き止めたのは啓太だった。
「ちょっと、買い物に」
「車出すよ」
「だ、大丈夫」
慌てて制止すると綺麗な眉間に浮かんだ皺がより濃くなる。
「夏実。俺に隠してることがあるだろ」
「そ、それは」
ここまで食い下がる啓太を初めて見た。けれど元カレの幽霊に会いに行くとはさすがに言えない。
「悪いことはしてないよ」
「なら、どうして隠すの?」
それは、やましい「こと」があるからじゃない。この心がやましい感情を抱いているから。
「ずっと気になってたんだ。婚約してても、まだ深い関係ではないし結婚に対してもあまり前向きには感じられないし。もしかして他に好きな奴でもいるの?」
__好きな奴。
この想いが気づかれていないだなんて自惚れていたわけではない。けれど言葉で問われることはないと思っていた。いつものように見てみぬふりをしてくれる。そう信じて疑わなかった私は、啓太のことを何もわかってはいなかった。
「ごめん。今は、話せない」
謝罪をするのは事実だと認めているのと同じ。けれど今は説明ができない。全てを話す時は全てが終わった後。
「ごめんなさい」
自分勝手だとわかりながらも、私はまた秋雄のいる夢の世界へと飛び込む。玄関脇に停めてあった自転車に跨ぐとペダルを漕ぐ私を、啓太は何も言わずにただじっと見つめていた。