夕飯を食べ終えるとシャワーを浴びて父と酒を酌み交わし、より親睦を深めている啓太を横目にこっそりと母に尋ねる。

「啓太はどこに寝るの?」

「夏実の部屋でしょ」

「え!?」

 驚いている私に母は呆れた顔をする。

「婚約者なんだから別々の方が不自然でしょ?」

「でも、和室があるじゃない。私は自室で寝ればいいし」

 抵抗も虚しく、大きな溜め息を吐き出した母は無言のまま私の部屋に客人用の布団を運んだ。
 こうなったら先に寝てしまうしかない。そう考えた私は歯磨きを済ませると素早くベッドに潜り込む。正直、これといって仕事をしたわけではない。なのに啓太がいることで緊張していたのだろう。今日は疲れた。

 “__昔はそんなこと言ってなかったじゃないの”
 母の言葉が、まだこの胸をチクチクとつつく。
 秋雄は幼馴染みだ。だから一緒にいても疲れることはなかったし、それは恋人関係になっても変わることはなかった。
 だけど取り繕った鎧が好きな相手に、鎧の中の本当の自分を見せることはやはりそう簡単なことではない。

「入るよ」

 ノックと共に扉が開く。部屋に入ってきた啓太は、ベッドの下に敷かれた客人用の布団の上に横になると話しかけてくる。狸寝入りは失敗に終わった。

「夏実は、一人の時間が好きなんだよな」

「それは啓太も同じでしょ?」

 私達は、一人暮らしをしている家に互いを招いたことはない。それは私と同じように、プライベートゾーンを大事にしている証拠ではないだろうか。そう思っていたのに啓太は思いもよらぬ返答をする。

「俺は一緒にいたいタイプだよ。でも最初の頃に何度か誘ったのに断られたから誘う勇気がなくなった」

 ゆっくりと身体を起こす気配がした。視線を向けると啓太はこちらを見て照れ臭そうに笑っている。