ママは牛刀一本を抜くと天に向ける。

『水の精霊よ、地の精霊よ、火の精霊よ、風の精霊よ、我に力を与えたまえ――今こそ力を解き放て――』

ママが詠唱すると共に牛刀の刃先に青い魔法陣が浮かび上がる。
森が震え大地が震え、周囲の空気さえもがママの元に集まってくるようだ。

「すごっ、ママったら魔法が使えたの……?」

『八百万神たち共に聞こしめせと畏み畏みも白す――』

「え、何? 魔法、なの? 今なんて言った?」

ママの口からはよくわからない言葉が飛び出す。だけどより一層の力が集まってることは肌でビンビンと感じてわたしはその時を待った。
コバルトファイヤードラゴンはママの姿を捉えたようで、こちらに向かって大きく口を開けた。

「ママ! 火炎がくる!」

ママはまだブツブツと詠唱中。
コバルトファイヤードラゴンの口から火炎が吐き出されるのとママの牛刀がコバルトファイヤードラゴンの眉間に向かって放たれるのは同時だった。

大きな火炎はママの放った牛刀によって真っ二つに裂かれて消滅していく。けれど火炎の威力も半端なく強く、火炎を裂くたびに牛刀魔法陣の威力が落ちていくように見える。せっかくママが強力魔法をつくり出してくれたのにこれでは眉間に刺さるかわからない。それに、このままだとママも危険だ――。

「うおぉぉぉぉぉぉーーーーー!」

瞬間、わたしは脇に差していた牛刀を抜き、コバルトファイヤードラゴンに向かって飛び出していた。

「マリちゃん!」

ママの叫びが後ろから聞こえるが構っている場合ではない。
わたしはトンと空を蹴ってママの牛刀魔法陣に追いつく。
刃先に浮かび上がる魔法陣にわたしの牛刀も重ね合わせそのまま力いっぱい押し込んだ。