「あの……そろそろ手を離して欲しいんですけど……」消え入りそうな声でお願いしてみたものの、聞き入れてもらえなかったばかりか更に強く握りしめられてしまったために痛みに耐えかねて思わず顔をしかめてしまったわ。それでも何とか我慢して耐え忍んでいたらようやく解放されたのでホッと一安心していたのだけれども、その直後に別の男が姿を現したかと思うと私達に向かってこう言ってきたのよね。
「ようこそ我が屋敷へ!」
その言葉を聞いた私達は一斉に顔を見合わせることになったのだけれども、お互いに状況が飲み込めていなかったこともあってしばらくの間黙り込んでしまうことになってしまったわ……。ただそんな中で唯一人だけ様子が違う人物がいたようで、その人物こそが先程私に触れてきた男であることが分かったのと同時に嫌な予感を覚えたのよね……。というのも彼と目が合った瞬間にニヤリと笑みを浮かべたかと思えば舌なめずりをしていたんですもの……。その様子を見て本能的に身の危険を感じた私は咄嗟に身構えたのだけれど、それが間違いだったと気づいた時にはもう手遅れになってしまっていたわ……。何故なら彼が私を押し倒してきた上に無理矢理服を脱がそうとしてきたからよ……!必死に抵抗しようとしたんだけれど力の差がありすぎて全く歯が立たなかったわ……。それどころか徐々に脱がされていく始末だったのでとても恥ずかしかったのだけれど、それよりも恐怖の方が上回っていたせいで思うように動けずにいたのよ……。
そしてとうとう下着姿にされてしまったところでいよいよ我慢できなくなって声を上げようとしたその時だったわ。突然目の前の男の姿が消えたかと思うと次の瞬間には地面に倒れ込んでいたの……。何が起こったのか分からず呆然としていたら、代わりに現れた人物の顔を見てハッとしたわよ……。なぜならそこに立っていたのは師匠だったんだもの……。どうしてここにいるのか疑問に思った私が尋ねようと口を開きかけたところで先に話し掛けられてしまい何も言えなくなってしまう羽目になったわ……。
「大丈夫か?」そう言って手を差し伸べてくれたまでは良かったのだけれど、その目つきを見た瞬間に背筋が凍るような感覚が襲ってきたのよね……。何しろ目の前にいる男性が今まで見たことがないくらい冷たい目をしていたものだから、怖くて仕方がなかったわ……。それでも何とか平静を装って返事をすることができたからホッとしたのも束の間、続けて言われた言葉に耳を疑ったわ。
「悪いがこの者達を風呂に入れてやってくれるか?」と言われてしまったのだもの……。最初は何を言われているのか分からなかったけれど、その意味を理解した途端に愕然としてしまったわ……。何故なら今この場にいるのは私とこの男だけで他には誰もいないからよ……。つまりどういうことかと言うと、今からこの男と一緒にお風呂に入るということを意味しているわけで……。
「いやいやいやいや!そんなの無理に決まってるじゃないですか!!」反射的にそう叫んでいたわ。しかし、それに対して返ってきた言葉は予想外のものだったのよね……。というのも実は既に準備が完了していたみたいで、後はお湯を張るだけだったみたいなのよ……。それを聞いてガックリ肩を落としていると不意に頭を撫でられてビックリしたのだけれど、
「すまないな……」と言って申し訳なさそうな表情をしているのを見てしまっては何も言えなかったわ……。いえ、むしろドキドキしてしまって余計に顔が赤くなってしまったくらいだったもの……。だからつい俯いてしまったのだけど、その様子を見ていたらしい彼はクスクスと笑うばかりだったわ。それが恥ずかしくてたまらなかったんだけれど、同時に嬉しくもあったのよね……。
「さてと、それじゃあ行くとするか」そう言われて慌てて顔を上げると、既に歩き出していた彼の後ろ姿が見えたため急いで追いかけたわ。それからしばらくして辿り着いた先で服を脱ぎ始めた姿を見ていたら急に恥ずかしくなってきちゃったから視線を逸らしたんだけど、そこでふとあることに気がついたの……。それは、私の体に刻まれている無数の傷跡のことだったわ。
「その傷は……?」恐る恐る尋ねてみたところ、少し考えるような素振りを見せた後でゆっくりと口を開いてくれたのよね。「これはな、かつて戦場で受けた名誉の負傷だ……」ですって!その言葉を聞いた瞬間、この人もまた壮絶な人生を歩んできたんだなと思ったわ……。何せ全身にこれだけの傷を負っているということは、
「相当過酷な戦いを経験してきたんですね……!」と言った途端、彼は一瞬驚いた様子を見せたもののすぐに笑みを浮かべてこう言ったの。「あぁ、その通りだとも」ってね。それを聞いた私もまた笑みを浮かべると改めて自己紹介することにしたわ。「初めまして、私の名前はリリアナと言います。これからよろしくお願いしますね?」
「こちらこそよろしく頼む」そう言って握手を交わした後で一緒に湯船に浸かったわけなんだけど、その時に見せた笑顔が素敵だったからドキッとしちゃったのよね……。それだけじゃなく、まるで子供みたいにはしゃいでる姿を見ていると何だか可愛いと思ってしまったわ。それに、普段はクールな感じなのに時折見せる笑顔なんかが特に魅力的よね!
「おぉっ!? これぞまさしく天からの贈り物!」そんな声を上げながら満面の笑みを浮かべている姿を見ると、私まで嬉しくなるっていうか……、とにかく見ているだけで幸せな気分になれちゃうのよねぇ~。
俺は、
「何言ってんだお前? いい加減にしろよ?」
と、相手の話を切り上げるように言う。
すると相手は、
「……あぁそうか。やっぱりそうだよね。僕だってそう思うもん」
と言って、俺の言葉を受け入れた様子を見せた。
しかしすぐにまた、
「おい! なんだお前は!? 俺様を誰だと思っ……!」
「うるせえ黙れよカス」
俺は即座に男の首にナイフを突き立てた。男の口から血が流れる。男は必死で抵抗するが、首筋からは噴水のように血液が噴き出した。
「お前ら、何をしているんだ!」
俺の背後にいた男が叫んだ。俺は振り返ると、その男の胸にナイフを突き立てる。そしてそのまま刃先を引き抜くと、今度は心臓めがけて突き刺した。男はその場に崩れ落ちるように倒れる。俺はそれを確認すると、
「さあ、次は誰だ?」
と言って周囲を見回した。しかし、皆、俺の顔を見るなり怯えた表情を浮かべるだけで、一向に襲いかかってくる気配はない。俺は舌打ちをした。
その時である。
突然、背後から何者かに殴られた。視界が激しく揺れる。
「よくも仲間を殺したな! 絶対に許さないぞ!」
俺はよろめきながらも体勢を立て直すと、声の主の方へと振り向く。そこには斧を構えた男の姿があった。どうやらそいつが後ろから殴りかかってきたらしい。
「お前が死ねよ」
俺が言い返すと、その男は怒りの表情を見せた。
「なんだと!?」
俺は手に持っていたサバイバルナイフを構えると、勢いよく相手に突進していった。
すると、相手も同じように俺に向かってくる。俺とそいつは互いに武器を振りかぶり、互いの急所を狙って攻撃を繰り出した。激しい金属音が響き渡る。
「くたばれ!」
男が叫ぶ。俺も負けじと言い返した。