俺には妹が一人いるわけだが、妹と言っても血の繋がりはない。俺の本当の家族は赤ん坊の時に亡くなってしまったからな……。そのため今の親に引き取られて育ったというわけだが、物心がつく前には既に施設に入っていたらしい。というのも俺が5歳の時に両親を亡くしてからはずっと預けられっぱなしだったからだそうだ。別に珍しいことじゃないと思うがな……。ただ、当時住んでいた家がかなりの田舎にあったことだけは未だに記憶に残っているほどだ。それこそ人よりも動物の方が多いような場所だと聞かされていたからな……。実際、よく近所で熊が出るという話を聞いたことがあるくらいだしなぁ……。だから余計に印象に残ったのかもしれない。とはいえ、だからといって俺自身が特別寂しい思いをしたということはなかったと思う。というのも、いつも一緒に遊んでくれる友人がいたからだ。名前は確か、カティアだったか……?彼女も両親がいなくて祖父母の家で育ったと聞いてはいるが詳しくは知らない。何しろお互いの家に遊びに行くことが多かったせいでろくに話すこともなかったし、そこまで深く踏み込もうともしなかったからだ。そんな俺達が初めて会話を交わしたのは彼女が初めて我が家に来た時だったように思う。その時は確か祖父の家でかくれんぼをして遊んでいた時だろうか……。その時に隠れ場所が見つからなかった彼女と鉢合わせた時にたまたま二人きりだったから話してみようと思ったのだが、お互いに言葉が出てこないまま見つめ合うだけで終わってしまったんだったな……。今にして思えば何をやってるんだと思うんだが当時は本当に何も思いつかなかったんだ……。それでどうしたものかと考えあぐねていると、彼女の方から話し掛けてきたんだ。「えっと、その……。わたしの名前はアリアっていうんだよ」自己紹介されて思い出したのだが、そういえば互いに名前すら知らなかったということに今更ながら気づかされたんだ。ただ、それでも俺達はその後も一緒にいる時間が増えていったんだよな……。いつの間にか友達になっていたということだろう。
そんなある時のことだ。俺と彼女はとある事件に巻き込まれることになるのだが、そこで不思議な体験をすることになったんだ。詳しい内容については長くなるから割愛するとして簡単に言えば異世界へ飛ばされたということなのだが、まぁそれはいいとしてだ。問題はその先のことなんだよな……。何故か元の世界に戻ってこられた上に時間も経過していなかったらしく、俺達は無事だったらしいということが確認できたわけだ。ただ、問題はまだ残っていたというか何と言うか……。それというのも、その時の記憶が一切思い出せなくなっていたからなんだ。いや、正確に言うと抜け落ちていたという方が正しいかもしれないな……。とにかく何があったのか分からない状態になってしまっていたんだ。だけど俺だけは何となく覚えていることがあったんだよ。そう、彼女のことをな……。だからそれを確かめたくて何度も会いに行こうとしたんだが中々思うようにいかなかった。というのも、どうやら向こうの世界で過ごした時間はこちらの世界だと一瞬の出来事だったらしいからだ。おまけに、アリアに至っては俺の事を覚えていなかったくらいだからな……。正直ショックだったよ。もしかしたら向こうで過ごした日々は俺にとって都合の良い夢だったのかもしれないと考えるようになってしまっていたくらいだからな……。でもそんなある日の事だったんだ――、
「――久しぶりですね」唐突にそんな言葉を掛けられるとともに後ろから声を掛けられたんだ。慌てて振り返ってみるとそこには見覚えのある人物が立っていたんだ。
「あなたは……」間違いないと思ったものの咄嗟に名前が出てこなかったため口籠ってしまったんだが、相手は気にしていない様子だった。それどころか笑みを浮かべつつ近付いてくるのだ。一体何の用だろうか?と不思議に思っていると――、
「私のことを忘れてしまったのですか?」などと言われてしまったため驚いたのを覚えている。もちろん忘れていたわけではないので首を横に振ったところ、
「良かったです」と言いながら胸を撫で下ろしているのが見えた。それを見て俺もホッとしていたわけなんだが、それと同時に違和感を覚えるようになっていたのだ。というのも、以前会った時と比べて明らかに大人っぽくなっていたというか、綺麗になっているように感じたからだった。しかもそれだけではなく服装も変わっていたので別人かと思ってしまったほどだったんだ。だが、本人であることには変わりないようだったけどな……。まぁそれはともかくとしてだ――、「突然どうしたんですか?」と尋ねてみたのだが、返ってきた答えは予想外のものだった。
「あなたに伝えたいことがあって来たんですよ」と言うのだ。それを聞いた瞬間、嫌な予感を覚えた俺は無意識のうちに身構えてしまっていたようだ。というのも、今までの経験上ろくなことがなかったからである。そのため警戒心を強めてしまったのだが、それに気付いたのか――、
「大丈夫ですよ。今回はあなたの味方ですから安心してください」と言ってきたのだった。それを聞いて安心したのも束の間――、
「実はお願いがあるのですが聞いてもらえますか?」と続けられたことで再び警戒する羽目になったのである。というのも今までの経験上、何か面倒なことを押しつけられるんじゃないかと思ったからだ。しかし、だからと言って断るのも気が引けたため渋々ながらも引き受けることにしたのだ。すると相手の表情が明るくなるのが分かった。その様子を見て悪い気はしなかったんだが、同時に複雑な心境にも陥っていた。というのも、その表情に見惚れてしまいそうになったからである。
(元勇者視点)
その後、彼女に連れられやってきたのは一軒家の一室だった。てっきり別の場所へ行くものだと思っていただけに意外だったが、それよりも気になったのが部屋の中にあった大量の本である。一体何に使うものなのか皆目見当もつかないが、少なくとも普通のものではないということだけは分かった気がした。何せ部屋の中が本棚だらけだったのだから当然だろう。しかもそこに収まっている本の数もかなり多いようで、数え切れないほどだったのだから圧倒されてしまうのも無理はないと思う。
「どうぞこちらへ」そう言って案内されたのはリビングらしき部屋だった。そこには大きなテーブルがあり、椅子がいくつか並べられていることからここがダイニングなのだろうと推測することができた。しかし、それ以外には特に目立ったものはなく、殺風景と言ってもいいくらいの状態だったため少々拍子抜けしてしまったことは言うまでもないことだろう。だからこそ戸惑いつつも勧められた椅子に腰を下ろしたのだが、その直後のことだった。テーブルの上に置いてあった本が独りでに動き出したかと思うと空中で文字を描き始めたのである。これには驚かざるを得なかったし、何より不気味さを感じていた。そのため思わず椅子から立ち上がってしまったわけだが、そんな俺の様子を見て師匠は苦笑いを浮かべていたな……。そして、すぐに元の位置に戻るよう促されたので大人しく従うことにしたのだが、その際にこんな言葉を掛けられたのだ。
そんなある時のことだ。俺と彼女はとある事件に巻き込まれることになるのだが、そこで不思議な体験をすることになったんだ。詳しい内容については長くなるから割愛するとして簡単に言えば異世界へ飛ばされたということなのだが、まぁそれはいいとしてだ。問題はその先のことなんだよな……。何故か元の世界に戻ってこられた上に時間も経過していなかったらしく、俺達は無事だったらしいということが確認できたわけだ。ただ、問題はまだ残っていたというか何と言うか……。それというのも、その時の記憶が一切思い出せなくなっていたからなんだ。いや、正確に言うと抜け落ちていたという方が正しいかもしれないな……。とにかく何があったのか分からない状態になってしまっていたんだ。だけど俺だけは何となく覚えていることがあったんだよ。そう、彼女のことをな……。だからそれを確かめたくて何度も会いに行こうとしたんだが中々思うようにいかなかった。というのも、どうやら向こうの世界で過ごした時間はこちらの世界だと一瞬の出来事だったらしいからだ。おまけに、アリアに至っては俺の事を覚えていなかったくらいだからな……。正直ショックだったよ。もしかしたら向こうで過ごした日々は俺にとって都合の良い夢だったのかもしれないと考えるようになってしまっていたくらいだからな……。でもそんなある日の事だったんだ――、
「――久しぶりですね」唐突にそんな言葉を掛けられるとともに後ろから声を掛けられたんだ。慌てて振り返ってみるとそこには見覚えのある人物が立っていたんだ。
「あなたは……」間違いないと思ったものの咄嗟に名前が出てこなかったため口籠ってしまったんだが、相手は気にしていない様子だった。それどころか笑みを浮かべつつ近付いてくるのだ。一体何の用だろうか?と不思議に思っていると――、
「私のことを忘れてしまったのですか?」などと言われてしまったため驚いたのを覚えている。もちろん忘れていたわけではないので首を横に振ったところ、
「良かったです」と言いながら胸を撫で下ろしているのが見えた。それを見て俺もホッとしていたわけなんだが、それと同時に違和感を覚えるようになっていたのだ。というのも、以前会った時と比べて明らかに大人っぽくなっていたというか、綺麗になっているように感じたからだった。しかもそれだけではなく服装も変わっていたので別人かと思ってしまったほどだったんだ。だが、本人であることには変わりないようだったけどな……。まぁそれはともかくとしてだ――、「突然どうしたんですか?」と尋ねてみたのだが、返ってきた答えは予想外のものだった。
「あなたに伝えたいことがあって来たんですよ」と言うのだ。それを聞いた瞬間、嫌な予感を覚えた俺は無意識のうちに身構えてしまっていたようだ。というのも、今までの経験上ろくなことがなかったからである。そのため警戒心を強めてしまったのだが、それに気付いたのか――、
「大丈夫ですよ。今回はあなたの味方ですから安心してください」と言ってきたのだった。それを聞いて安心したのも束の間――、
「実はお願いがあるのですが聞いてもらえますか?」と続けられたことで再び警戒する羽目になったのである。というのも今までの経験上、何か面倒なことを押しつけられるんじゃないかと思ったからだ。しかし、だからと言って断るのも気が引けたため渋々ながらも引き受けることにしたのだ。すると相手の表情が明るくなるのが分かった。その様子を見て悪い気はしなかったんだが、同時に複雑な心境にも陥っていた。というのも、その表情に見惚れてしまいそうになったからである。
(元勇者視点)
その後、彼女に連れられやってきたのは一軒家の一室だった。てっきり別の場所へ行くものだと思っていただけに意外だったが、それよりも気になったのが部屋の中にあった大量の本である。一体何に使うものなのか皆目見当もつかないが、少なくとも普通のものではないということだけは分かった気がした。何せ部屋の中が本棚だらけだったのだから当然だろう。しかもそこに収まっている本の数もかなり多いようで、数え切れないほどだったのだから圧倒されてしまうのも無理はないと思う。
「どうぞこちらへ」そう言って案内されたのはリビングらしき部屋だった。そこには大きなテーブルがあり、椅子がいくつか並べられていることからここがダイニングなのだろうと推測することができた。しかし、それ以外には特に目立ったものはなく、殺風景と言ってもいいくらいの状態だったため少々拍子抜けしてしまったことは言うまでもないことだろう。だからこそ戸惑いつつも勧められた椅子に腰を下ろしたのだが、その直後のことだった。テーブルの上に置いてあった本が独りでに動き出したかと思うと空中で文字を描き始めたのである。これには驚かざるを得なかったし、何より不気味さを感じていた。そのため思わず椅子から立ち上がってしまったわけだが、そんな俺の様子を見て師匠は苦笑いを浮かべていたな……。そして、すぐに元の位置に戻るよう促されたので大人しく従うことにしたのだが、その際にこんな言葉を掛けられたのだ。