「死ぬのはてめえだ!」
俺たちはその後も何度も攻撃しあった。やがて、どちらも体力を使い果たしてしまい、ついに決着がつくことはなかった。肩で息をしながら睨み合う俺たちだったが、しばらくすると相手が口を開いた。
「ふん、今日はこのくらいにしといてやるぜ」
そう言うと、相手は去っていった。
俺はしばらくその場にとどまっていた。興奮が冷めないからだ。
その時である。ふいに、俺の頭の中に声が聞こえてきた。
(あなたなら勝てる……)
間違いない。確かに聞こえた。しかも女性の声のようだ。しかし、
「どこからだ? どこにいる?」
辺りを見回してみるものの、人の姿はない。だが、声は聞こえ続けている。
(あなたは強い……だからきっと勝てる……)
なるほど、俺のことを励ましてくれているようだ。なかなかいい奴じゃないか。
「ありがとうよ。ところで君は誰なんだい?」
そう尋ねると、
「私は……あなたに力を貸す者……。でも今は話せない……あなたがもっと強くなったら教えてあげる……」
「ふうん、まあいいさ。じゃあ、早く強くなって君に会いに行くよ」
「待ってる……。その時が来たら、あなたの力になるから……」
その言葉を最後に、その声は聞こえなくなった。
「不思議な体験だったな……」
そう思いながらも、俺は再び歩き出したのだった。
翌日、俺はいつものように会社に出社した。そしていつも通り仕事を始める。今日の仕事はデスクワークだ。黙々とパソコンに向かい、キーボードを叩く音だけが室内に響いている。同僚たちはそれぞれ別の仕事をしていて、会話はなかった。ただ一人を除いては。
「おはようございます、先輩!」
そう言いながら近づいてきたのは、後輩の山村だった。彼女はなぜか、いつも朝からテンションが高い。
「おはよう、今日も元気だね」
「はい! 先輩に会えたので、とても気分がいいです!」
「そ、そうかい……。それは良かったね」
相変わらず、
「えへへ~」
と言いながらニコニコしている彼女を見て、思わず苦笑してしまう。こんな俺を慕ってくれるなんてありがたい話だが、どうにも苦手だ。そもそも俺には女友達がいないから接し方が分からないのである。
そんなことを考えていると、彼女が突然こんなことを言い出した。
「そういえば先輩って恋人とかいないんですか?」
「え? なんでそんなこと聞くんだよ?」
いきなりの質問に動揺していると、彼女はさらに質問を重ねてきた。
「だって気になるじゃないですかぁ~! 先輩はどんな女性がタイプなんですかぁ~?」
そう言って詰め寄ってくる彼女に、俺はどう答えたものか迷った。正直に言えば好みの女性など考えたこともないのだが、
「まあ……優しい人かな」
とりあえず無難な答えを返しておくことにした。実際問題、あまり深く考えたことがないのだから仕方がないだろう。ただ、それを聞いた彼女の反応は予想外のものだった。何故か急に顔を赤らめてモジモジし始めたのだ。
「……どうした?」
不審に思った俺が尋ねてみると、いきなりバスタードソードで切りかかってきた。
「おわっ!?」
間一髪のところで避けると、今度は槍を突き出してくる。それも躱すと今度は弓を構えて矢を放ってきた。なんとか避けたものの、このままではマズイと思った俺は彼女を落ち着かせようと試みる。
「ちょ、ちょっと待て! 落ち着け! どうしたんだ一体!?」
「うるさい!! 殺してやる!!」
駄目だこりゃあ……。完全に我を失っている様子だ。仕方ないから気絶させることにするか。そう思って構えた瞬間、横から何かが飛んできたかと思うと目の前の女に直撃した。見るとそれは丸太だった。誰かが投げたのだろうと思ったが、よく見るとその女はさっき倒したはずの山賊の女だった。
「なんで生きてるんだ……?」
驚いて見ていると、女が立ち上がってこちらに歩いてきた。そして目の前で止まると、俺の顔を見ながらニヤリと笑う。
「うふふ……残念でしたねぇ……」
「何がだよ……?」
意味がわからず聞き返すと、女が説明を始めた。
「私が倒れたフリをしていたことに気づかなかったのですか……? ああやって油断させて隙をつくつもりだったのですよ……」
そう言ってニヤニヤと笑う女に対して苛立ちを覚えながら反論する。
「だとしても何故生きている!? 確実に息の根を止めたはずだぞ!」
すると女は笑いながら言った。
「ああ、あれですか? あの攻撃には殺意を感じませんでしたからね……おそらく殺す気はなかったのでしょう? それに私、ゾンビですから」
その言葉に驚愕した。まさか本当に不死身なのか? いや、まだ決まったわけではないと思い直し、再び尋ねる。
「お前……名前は何という?」
「私ですか?お前さのようなクズに聞かせる名などないわ。アサシンに殺されて死ね」
「なんだとこの野郎……!」
挑発に乗ってしまった俺は刀を抜いて斬りかかったが、あっさり避けられてしまう。それどころか逆にカウンターをくらってしまいそうになったため慌てて距離を取ったが、その瞬間に背中に激痛が走った。いつの間にか後ろに回り込まれており、剣で斬られてしまったらしい。傷口が熱い。
「ぐうっ……!」
痛みに耐えつつ反撃しようと振り向いたが、その時には既に相手の姿は無かった。慌てて周囲を見回すと、なんと屋根の上にいた。しかもそこから飛び降りてくるではないか……!
「くっ!」
咄嗟に横に飛び退いて回避しようとしたが間に合わず、相手の蹴りを受けて吹き飛ばされる羽目になった。
「ぐうぅっ……!」
地面に叩きつけられながらも何とか立ち上がろうとしたが、今度は腹に衝撃が走る。どうやら相手の飛び膝蹴りを受けたようだ。胃液を吐き散らしながらも、相手の追撃に備えて立ち上がる。だが相手はもう攻撃する気は無いらしく、少し離れた場所で立っていた。その表情はどこか満足げであるように見える。
「くそぉ……」
悔しかったが、これ以上の戦闘は不可能だと悟った俺は大人しく刀を鞘に収めた。それを見て相手の表情が変わる。どうやら喜んでいるようだ。しかし次の瞬間、俺の背後で大きな爆発が起こったことで驚いたのか、その場から逃げ出したようだった。どうやら仲間も巻き添えにしたようだが知ったことではない。
「はあ……助かった……」
安堵の溜息を漏らすと同時に力が抜けてしまい、その場に倒れ込んでしまった。全身が痛む上に意識が朦朧としているせいで指一本動かせない状態だ。このまま死ぬかもしれないと思ったが、その前に助けが来たようで、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
(しっかりしてください!)
(お前は……誰だ?)
(そんなことはどうでもいいんです!それより怪我を見せてください!)
(分かったよ……)
(酷い傷ですね……これは治るのに時間がかかりそうです……)
(そうか……どれくらいかかるんだ?)
(分かりません……)
(そうか……それなら仕方ねえな……)
(あの……一つ提案があるのですが……)
(なんだ?お前、死んでくれない? どう見ても俺をゾンビにする気満々じゃねーか。つうか、この塩酸浴びて死ね!)
(いえ、そうではなくてですね……私の身体を差し上げますので代わりに助けてもらえませんか……?)
俺たちはその後も何度も攻撃しあった。やがて、どちらも体力を使い果たしてしまい、ついに決着がつくことはなかった。肩で息をしながら睨み合う俺たちだったが、しばらくすると相手が口を開いた。
「ふん、今日はこのくらいにしといてやるぜ」
そう言うと、相手は去っていった。
俺はしばらくその場にとどまっていた。興奮が冷めないからだ。
その時である。ふいに、俺の頭の中に声が聞こえてきた。
(あなたなら勝てる……)
間違いない。確かに聞こえた。しかも女性の声のようだ。しかし、
「どこからだ? どこにいる?」
辺りを見回してみるものの、人の姿はない。だが、声は聞こえ続けている。
(あなたは強い……だからきっと勝てる……)
なるほど、俺のことを励ましてくれているようだ。なかなかいい奴じゃないか。
「ありがとうよ。ところで君は誰なんだい?」
そう尋ねると、
「私は……あなたに力を貸す者……。でも今は話せない……あなたがもっと強くなったら教えてあげる……」
「ふうん、まあいいさ。じゃあ、早く強くなって君に会いに行くよ」
「待ってる……。その時が来たら、あなたの力になるから……」
その言葉を最後に、その声は聞こえなくなった。
「不思議な体験だったな……」
そう思いながらも、俺は再び歩き出したのだった。
翌日、俺はいつものように会社に出社した。そしていつも通り仕事を始める。今日の仕事はデスクワークだ。黙々とパソコンに向かい、キーボードを叩く音だけが室内に響いている。同僚たちはそれぞれ別の仕事をしていて、会話はなかった。ただ一人を除いては。
「おはようございます、先輩!」
そう言いながら近づいてきたのは、後輩の山村だった。彼女はなぜか、いつも朝からテンションが高い。
「おはよう、今日も元気だね」
「はい! 先輩に会えたので、とても気分がいいです!」
「そ、そうかい……。それは良かったね」
相変わらず、
「えへへ~」
と言いながらニコニコしている彼女を見て、思わず苦笑してしまう。こんな俺を慕ってくれるなんてありがたい話だが、どうにも苦手だ。そもそも俺には女友達がいないから接し方が分からないのである。
そんなことを考えていると、彼女が突然こんなことを言い出した。
「そういえば先輩って恋人とかいないんですか?」
「え? なんでそんなこと聞くんだよ?」
いきなりの質問に動揺していると、彼女はさらに質問を重ねてきた。
「だって気になるじゃないですかぁ~! 先輩はどんな女性がタイプなんですかぁ~?」
そう言って詰め寄ってくる彼女に、俺はどう答えたものか迷った。正直に言えば好みの女性など考えたこともないのだが、
「まあ……優しい人かな」
とりあえず無難な答えを返しておくことにした。実際問題、あまり深く考えたことがないのだから仕方がないだろう。ただ、それを聞いた彼女の反応は予想外のものだった。何故か急に顔を赤らめてモジモジし始めたのだ。
「……どうした?」
不審に思った俺が尋ねてみると、いきなりバスタードソードで切りかかってきた。
「おわっ!?」
間一髪のところで避けると、今度は槍を突き出してくる。それも躱すと今度は弓を構えて矢を放ってきた。なんとか避けたものの、このままではマズイと思った俺は彼女を落ち着かせようと試みる。
「ちょ、ちょっと待て! 落ち着け! どうしたんだ一体!?」
「うるさい!! 殺してやる!!」
駄目だこりゃあ……。完全に我を失っている様子だ。仕方ないから気絶させることにするか。そう思って構えた瞬間、横から何かが飛んできたかと思うと目の前の女に直撃した。見るとそれは丸太だった。誰かが投げたのだろうと思ったが、よく見るとその女はさっき倒したはずの山賊の女だった。
「なんで生きてるんだ……?」
驚いて見ていると、女が立ち上がってこちらに歩いてきた。そして目の前で止まると、俺の顔を見ながらニヤリと笑う。
「うふふ……残念でしたねぇ……」
「何がだよ……?」
意味がわからず聞き返すと、女が説明を始めた。
「私が倒れたフリをしていたことに気づかなかったのですか……? ああやって油断させて隙をつくつもりだったのですよ……」
そう言ってニヤニヤと笑う女に対して苛立ちを覚えながら反論する。
「だとしても何故生きている!? 確実に息の根を止めたはずだぞ!」
すると女は笑いながら言った。
「ああ、あれですか? あの攻撃には殺意を感じませんでしたからね……おそらく殺す気はなかったのでしょう? それに私、ゾンビですから」
その言葉に驚愕した。まさか本当に不死身なのか? いや、まだ決まったわけではないと思い直し、再び尋ねる。
「お前……名前は何という?」
「私ですか?お前さのようなクズに聞かせる名などないわ。アサシンに殺されて死ね」
「なんだとこの野郎……!」
挑発に乗ってしまった俺は刀を抜いて斬りかかったが、あっさり避けられてしまう。それどころか逆にカウンターをくらってしまいそうになったため慌てて距離を取ったが、その瞬間に背中に激痛が走った。いつの間にか後ろに回り込まれており、剣で斬られてしまったらしい。傷口が熱い。
「ぐうっ……!」
痛みに耐えつつ反撃しようと振り向いたが、その時には既に相手の姿は無かった。慌てて周囲を見回すと、なんと屋根の上にいた。しかもそこから飛び降りてくるではないか……!
「くっ!」
咄嗟に横に飛び退いて回避しようとしたが間に合わず、相手の蹴りを受けて吹き飛ばされる羽目になった。
「ぐうぅっ……!」
地面に叩きつけられながらも何とか立ち上がろうとしたが、今度は腹に衝撃が走る。どうやら相手の飛び膝蹴りを受けたようだ。胃液を吐き散らしながらも、相手の追撃に備えて立ち上がる。だが相手はもう攻撃する気は無いらしく、少し離れた場所で立っていた。その表情はどこか満足げであるように見える。
「くそぉ……」
悔しかったが、これ以上の戦闘は不可能だと悟った俺は大人しく刀を鞘に収めた。それを見て相手の表情が変わる。どうやら喜んでいるようだ。しかし次の瞬間、俺の背後で大きな爆発が起こったことで驚いたのか、その場から逃げ出したようだった。どうやら仲間も巻き添えにしたようだが知ったことではない。
「はあ……助かった……」
安堵の溜息を漏らすと同時に力が抜けてしまい、その場に倒れ込んでしまった。全身が痛む上に意識が朦朧としているせいで指一本動かせない状態だ。このまま死ぬかもしれないと思ったが、その前に助けが来たようで、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
(しっかりしてください!)
(お前は……誰だ?)
(そんなことはどうでもいいんです!それより怪我を見せてください!)
(分かったよ……)
(酷い傷ですね……これは治るのに時間がかかりそうです……)
(そうか……どれくらいかかるんだ?)
(分かりません……)
(そうか……それなら仕方ねえな……)
(あの……一つ提案があるのですが……)
(なんだ?お前、死んでくれない? どう見ても俺をゾンビにする気満々じゃねーか。つうか、この塩酸浴びて死ね!)
(いえ、そうではなくてですね……私の身体を差し上げますので代わりに助けてもらえませんか……?)