「あなたは死んでしまいました。ですから、異世界に転生することになります」と言われ、私は驚いた。
「えっと、もう一度説明しますね。あなたは、邪神との戦いで死亡してしまい、魂だけの存在になったのです」と説明された。
私は幽霊のような存在になったのかと思い、疑問を投げかけた。「もし邪神を倒せなかった場合、私以外にも全員が死んでしまったのですか?」
「はい、そうです。あなたに関わった全ての人々、あなたの妹さんも含めてです。ただ、神様が頑張ってくれたため、あなただけは助かりました」と返答された。
私はがっかりしてしまったが、心配そうに声をかけてくれた相手に「大丈夫です」と答えた。異世界生活を送るために安心しなければならないと言われ、私は旅立った。

そして、新しい世界での出来事。栄えある魔女学校の入学式。
新入生の晴れ舞台は予期せぬ飛び入りによって盛大にぶち壊された。
「ひほふ、ひほふ、ひほふしちゃう~☆彡」
セーラー服にペチコート。下品を絵に描いたような痴女が校庭を駆け回っている。
禁断魔導書(グリモワール)の22番を持ち出した生徒は職員室に出頭せよ。さもなくば…」
三つ首の蝙蝠が吠える。

「ベライゾン妃殿下は?」
「先程、お帰りになりました」
「…………そうか」
国王陛下は玉座から立ち上がり、窓辺へと歩を進めた。その表情には落胆の色がありありと浮かんでいる。
「また来てくれるだろうか」
「それはもう、間違いなく」
「だと良いのだがな」
陛下は小さくため息をつくと窓の外を見やった。
ここは王城の一室。執務用の部屋だ。部屋の中は広くて天井も高い。壁一面を覆う本棚や、重厚な造りの机が置かれているものの、調度品の類は最低限のものしか置かれていない。ただ一つだけ目を引くものがあるとすれば、それは壁に掛けられた巨大な肖像画だった。
美しい女性の肖像画である。歳の頃なら二十代半ばといったところだろうか。淡い金髪と白い肌の持ち主で、瞳の色は深い青色をしている。身にまとうドレスも上質なもので、高貴な生まれであることを容易に想像させるものだった。
この女性が誰なのかを知る者は数少ない。国王陛下ですらも知らないのだ。しかし、噂では彼女が王妃であるとか、或いは王女であるなどと言われている。だが、真相は明らかにされていない。それどころか、彼女の素性に関する話題になると、誰もが口を閉ざしてしまうのだ。まるで禁忌に触れることを恐れるかのように。
「陛下!」
その時、部屋の扉が開かれ、一人の兵士が入室してきた。兵士は額に汗を浮かべながら陛下のもとへ歩み寄ると、緊張した面持ちで口を開いた。「報告いたします! たった今、国境付近に魔物の大群が出現しました」
「何? 数はどれほどだ?」
「正確な数は不明ですが、少なくとも数千体はいるものと思われます。現在、王国騎士団による迎撃作戦が開始されておりますが、敵の数が多過ぎて対応しきれません」
「分かった。すぐに応援を出すとしよう。それで状況はどうなっている?」
「はい、それが……」
兵士はそこで言葉を切ると、視線を逸らしながら言った。「我が方の被害も甚大でありまして……。もはやこれまでという声も出ています」
「馬鹿者め!」
陛下は怒りに満ちた口調で言うと、拳を強く握り締めた。「そんなことは言うまでもないことだ。お前達だって分かっているだろう。ここで我々が敗北すれば、多くの民の命が失われることになるんだぞ」
「申し訳ありません。私としても不甲斐ない気持ちで一杯なのですが……、現実問題として打つ手がございません」
「……仕方がない。とにかく急ぎ兵を集めよう。準備が出来次第、私自ら出陣する。それから、魔術師部隊にも連絡を取っておいてくれ。彼らには後方支援を頼もうと思っているからな」
「分かりました。ただちに手配いたします」
「よし、急げよ」
兵士は深々と頭を下げると、慌ただしく退室していった。その後ろ姿を見送りながら、陛下は大きくため息をつく。そして、何かを決意したような表情を見せると、椅子の背に深く体を預けた。
「いよいよだな……」
陛下の言葉を聞いた僕は、ごくりと唾を飲み込んだ。いよいよその時が来たのかと思うと、全身に鳥肌が立ち、心臓が激しく脈打ち始める。
「ああ、そうだ。遂にこの時が訪れたんだよ」
陛下はそう呟きながら立ち上がると、窓辺に向かって歩き始めた。僕もそれに続き、共に外の風景を見やる。すると、そこでは激しい戦いが繰り広げられていた。剣や槍を手にした兵士達が、魔物の軍勢を相手に果敢に立ち向かっていく様子が見て取れる。その光景を目の当たりにした瞬間、僕の脳裏には嫌でもあの日のことが蘇ってきた。
あれは今から三年前のこと……。当時、僕は冒険者としてそれなりに名の知れた存在だった。それというのも、この国では珍しいとされる闇属性魔法を操れたからだ。その力を使い、様々な依頼をこなしてきた結果、いつしかSランクの称号を与えられるまでに成長していた。
そんな折、突如として現れた魔王軍によって世界中が混乱に陥ることになる。当初は人類側も善戦したものの、魔王軍の圧倒的な戦力の前に次第に劣勢に追い込まれていった。その結果、人族の領土の大半は奪われてしまい、生き残った者達は散り散りになって逃げ惑う羽目になる。
しかし、そんな中にあっても僕達は諦めなかった。仲間と共に力を合わせ、どうにかこうにか生き抜くことが出来たのだ。そして、長い年月を経て、とうとう魔族の王である魔王を討ち滅ぼすことに成功。その偉業を称えられると同時に、人々は英雄の存在を知ることとなった。
それが現国王陛下である。彼は元勇者だった。それも、伝説の聖剣に選ばれし勇猛な戦士だったのである。
勇者は人々の希望の象徴となった。同時に、人々から強い尊敬の念を集めるようになる。中には彼に憧れを抱く者も現れ始め、やがて彼のことを慕って集った人達により、一つの集団が形成された。後に彼らは王国騎士団と呼ばれることになり、その名は瞬く間に世界中に広まることになった。
だが、ある時を境にして、彼らの活動は急激に衰えていくことになる。理由は単純明快だった。魔王軍を打倒したことで、人々が安心感を覚えてしまったからである。平和になった世界で、これ以上の活躍を求める必要がなくなったというわけだ。
この世界のどこかにあると言われる『大迷宮』も、既に攻略されてしまっている。そのため、新たな脅威が現れることもなく、人々は日々を平穏無事に過ごすようになっていった。