言葉にならなかった。無意識のうちにカッターの刃を握りしめていた。そんな私の左手からは、血がぽたぽたと流れ落ちてきている。

 「八雲はいいの?」

 「八雲じゃなくて、凪穂ちゃんでしょ。絶対今は。」

 「私、もうわかんないよ。自分がなんだか、自分を見失っちゃったの。助けてよ、大和。」

膝に力が入らなくなって立てなくなった。私はこのまま地面に頭を打って死ぬ覚悟をした。
その時、私の体は誰かの手に支えられた。

 (死なない。?)

 「あっぶない。よかった。」

 「大和――...?」

 「話してみて。全部。」

大和の優しくて穏やかな声に語りかけられた瞬間、うるんだ瞳から涙が零れ落ちた。
もうダメだ。全部話そう。そう思えた瞬間だった。

 「好きなの、大和のこと。けどダメでしょ?八雲でしょ?けどさ、パズルみたく組み合わせたときに最後に残るのは私だったんだよ。けど、誰かと誰かの間を割って入るようなことは避けたかった。」

 「うん...。」

 「大和、最後に良いこと教えてあげるね。誰にも言ったことないとっておきの秘密。」

無理に笑顔を作って大和の顔を見て言った。私を見た大和は大きくうなずいた。

 「私、松本千景なんだよ。大和が推してる。」