結婚式
K高原から戻って数日後、結芽と兄が客間に二つ並んだ座布団に座って、両親と私達に挨拶をした。
「父さん母さん、颯、明日香、そして仁と天。俺と結芽ちゃんが結婚する事を許可してください。」
そう言って二人で頭を下げた。
それに対して両親は、
「何を今更。結芽ちゃんが良ければこちらは大歓迎だ。」
「ふふ。そうね。」
私達も、
「おめでとう!結芽良かったね!」
「兄上、おめでとうございます。」
「「叔父ちゃま、おめでとう!!」」
私達がそう口々に言うと、二人は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、
「おう!!ありがとう・・。嬉しい。」
「ありがとう…。嬉しいわ。」
と、私達の言葉に結芽は眼に涙を浮かべていた。
イケメンで優しくて頭も良くて穏やか。家族から見てもこれ以上の優良物件は無いと思うほどの兄で、
昔からモテていた。その兄がわたしの親友と結婚するのか…。
結芽が私のお義姉さんになるなんて、不思議な感覚だ。
でも、これから家族として接することが出来るのは何より嬉しかった。
そして半年後、結芽と兄は結婚式を挙げた。兄は群青色の法衣に水色の袈裟、結芽は白無垢に綿帽子。仏前結婚式なのは言うまでも無く我が家の本堂でお互いの家族のみで、こじんまり執り行ってから披露宴は街中のホテルで行った。
招待客も100人を超え、音大仲間が場を盛り上げ、賑やかな披露宴になった。瑠衣も絵の才を存分に発揮してウエルカムボードに二人の絵を描いた。
グランドピアノを演奏している結芽の傍らに、凛々しい僧侶姿の兄が優しく柔らかな眼差しで微笑み、見つめている。その絵のクオリティは素晴らしく、招待客の話題をさらった。
瑠衣は、美大に通っていた頃からSNS で自分の絵を発信していた。最初はあまりフォローされなかったが、発信し続けた結果、徐々にフォロワーが増えて今では3万人のフォロワーがいる。
しかも、絵を売って欲しいという問い合わせが来てそれに応えたら、たちまち完売したそうだ。
今では自立した生活を送っていて、交際中の彼とは一年後に結婚すると報告された。
瑠衣の彼は同じ美大出身で、卒業後は安定を求めて大手の舞台美術の会社に入社したという。
「そっか。瑠衣も幸せを掴んだね。結婚式には呼んでくれるんでしょう?!」
「当たり前でしょう!!明日香を呼ばないで誰を呼ぶのよ!何が何でも絶対に来てよね。」
瑠衣はそう言って笑った。
「うん。絶対に行くよ。」
私は結芽と瑠衣の幸せそうな姿に感無量だったが、両親と颯さんは私に違う眼差しを向けていたことを知らなかった。
披露宴が無事済んで、両親と私達家族は夕方5時頃帰宅した。着替えをして、疲れて眠ってしまった
仁と天を部屋に運んでから大人の時間となった。
披露宴のご馳走でお腹いっぱいだった私達はお茶で一息ついてから暫くして母が、
「明日香。貴方たちの結婚式、もう一度やり直す?!」と徐に聞いてきた。
「え、どうして?!」
「貴方たちは秘密の結婚式をしたでしょう?!だからとても質素だったし、家族で食事会をしただけだから…。今日青蓮の結婚式を見て、披露宴だけでもどうかと思って…。」
そんな事を思ってくれたんだ・・。でも、私はあの結婚式に何の不満も無かった。
「ありがとう。でも必要無いよ。私は今とても幸せだから。」
そう答える私に、颯さんは何も言わずに聞いている。でも母は本当にそうなのかと尚も問いかけた。
「そうは言ってもねえ・・・。女の子なら誰でも夢見る結婚式なのに、私の着た花嫁衣裳で式をして、私の手作り料理で家族だけでお祝いなんて、哀しくなかったの?」
「確かに昔の私なら、物語のような白馬の王子様と出会って、皆にお祝いされ、美しい衣装を着て結婚式を挙げ、皆とご馳走を食べて幸せを共有する。そんなテンプレが良いと思っていたよ。
でも今は、本当に親しい人達に結婚式を見守ってもらい、心尽くしの料理でお祝いして貰った。それこそ価値があったと思っているの。」
「そっか。明日香がそう言うなら、良しとしますか。」と、まだ納得していないような表情で言った。
「私は颯さんと結婚出来た事こそが幸せだから。それに、二人の宝物を授かったしね。」そう言うと、母はやっと納得したようだった。
そんな私の答えに颯さんは微笑みを浮かべ、愛おしそうに私を見つめていた。
それから一年後、瑠衣が結婚式を挙げることになった。
だが結婚式の数日前、私は颯さんからある事を聞かされて非常に驚いたが、その事については私達だけの秘密である。
結婚式当日。
瑠衣のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの移動の負担を考え、地元の高原にあるリゾートホテルの庭で結婚式と披露宴を行う。
2000m級の雄大な山々。流れている川の透明度は抜群で川の石も白に近い。遠くに近くに生えている木々はさわさわと音を立て、爽やかな風が吹いている。美しい大自然の景色を生かす為、列席者の座る椅子以外は極力人工の物は置かず、代わりに可憐で可愛らしい花のブーケをそこかしこに飾り、大自然の中の結婚式を演出した。
披露宴は皆がそれぞれゆっくり楽しめるようにという配慮から、司会進行は有ったが、型に嵌まらず
歓談だけで演出は無かった。食事も自分の好みの料理を好きなだけ食べてもらうようにビュッフェスタイル。
新郎新婦と歓談したり、景色を肴に料理とお酒を楽しんだり、それぞれ自由に過ごしてもらった。
都会ではあまり出来ないスタイルに、招待客からは大好評だったらしい。
私はまだ祝福の言葉を言えてなかったので、新郎新婦の周囲に人がいなくなったのを見計らって瑠衣に話しかけた。
純白のシルクのウエディングドレスはVネックで、マーメイドトレーンラインのシンプルかつ上品なドレス。髪は夜会巻きにして、真珠のネックレスとイヤリングが上品さを更に際立たせている。
本当の美人は飾り立てなくても美しいと云う見本である。
「瑠衣、結婚おめでとう!すごく綺麗!」
「明日香、ありがとう。あ、紹介するね。彼は黒澤拓真さん。これから私ともども宜しくお願いします。」
「明日香さん初めまして。黒澤です。これからよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。瑠衣、またいつでもうち遊びに来てね。今度は旦那様と一緒にね。」と悪戯っぽくウインクした。
瑠衣は恥ずかしそうにしながらも、「うん、絶対行くから。」といってほほ笑んだ。
二人の幸せそうな姿に安堵の気持ちと一緒に、数日前に颯さんから聞いたことを思い出していた。
颯さんはこう言った。
「瑠衣ちゃんの結婚相手は、黒龍の生まれ変わりだよ。」
「・・・・。えー!!」
衝撃以外の何物でも無かったが、この事は私と颯さんの秘密であり、話すことは出来ない。
瑠衣は前世でも現世でも辛い経験をしているので是非幸せになって欲しいと思う。そして黒龍は人間として道を踏み外す事無く精一杯頑張って、いつかまた龍神へと昇華して欲しいと願わずにはいられない。
私は二人が夫婦としてお互い労わり合って、幸せである事を心から祈るしか出来なかった。
こうして、小学校からの親友の瑠衣は黒龍の生まれ変わりである黒澤拓真さんと結婚し、颯さんと一緒にこれから見守ることになった。
結芽は、一年前兄と結婚して私のお義姉さんになった。現在妊娠中で、もうすぐ生まれる。
”縁は異なもの味なもの”とはよく言った。
全ての縁は必然。無駄な事は何も無いと改めて思ったのだった。
K高原から戻って数日後、結芽と兄が客間に二つ並んだ座布団に座って、両親と私達に挨拶をした。
「父さん母さん、颯、明日香、そして仁と天。俺と結芽ちゃんが結婚する事を許可してください。」
そう言って二人で頭を下げた。
それに対して両親は、
「何を今更。結芽ちゃんが良ければこちらは大歓迎だ。」
「ふふ。そうね。」
私達も、
「おめでとう!結芽良かったね!」
「兄上、おめでとうございます。」
「「叔父ちゃま、おめでとう!!」」
私達がそう口々に言うと、二人は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、
「おう!!ありがとう・・。嬉しい。」
「ありがとう…。嬉しいわ。」
と、私達の言葉に結芽は眼に涙を浮かべていた。
イケメンで優しくて頭も良くて穏やか。家族から見てもこれ以上の優良物件は無いと思うほどの兄で、
昔からモテていた。その兄がわたしの親友と結婚するのか…。
結芽が私のお義姉さんになるなんて、不思議な感覚だ。
でも、これから家族として接することが出来るのは何より嬉しかった。
そして半年後、結芽と兄は結婚式を挙げた。兄は群青色の法衣に水色の袈裟、結芽は白無垢に綿帽子。仏前結婚式なのは言うまでも無く我が家の本堂でお互いの家族のみで、こじんまり執り行ってから披露宴は街中のホテルで行った。
招待客も100人を超え、音大仲間が場を盛り上げ、賑やかな披露宴になった。瑠衣も絵の才を存分に発揮してウエルカムボードに二人の絵を描いた。
グランドピアノを演奏している結芽の傍らに、凛々しい僧侶姿の兄が優しく柔らかな眼差しで微笑み、見つめている。その絵のクオリティは素晴らしく、招待客の話題をさらった。
瑠衣は、美大に通っていた頃からSNS で自分の絵を発信していた。最初はあまりフォローされなかったが、発信し続けた結果、徐々にフォロワーが増えて今では3万人のフォロワーがいる。
しかも、絵を売って欲しいという問い合わせが来てそれに応えたら、たちまち完売したそうだ。
今では自立した生活を送っていて、交際中の彼とは一年後に結婚すると報告された。
瑠衣の彼は同じ美大出身で、卒業後は安定を求めて大手の舞台美術の会社に入社したという。
「そっか。瑠衣も幸せを掴んだね。結婚式には呼んでくれるんでしょう?!」
「当たり前でしょう!!明日香を呼ばないで誰を呼ぶのよ!何が何でも絶対に来てよね。」
瑠衣はそう言って笑った。
「うん。絶対に行くよ。」
私は結芽と瑠衣の幸せそうな姿に感無量だったが、両親と颯さんは私に違う眼差しを向けていたことを知らなかった。
披露宴が無事済んで、両親と私達家族は夕方5時頃帰宅した。着替えをして、疲れて眠ってしまった
仁と天を部屋に運んでから大人の時間となった。
披露宴のご馳走でお腹いっぱいだった私達はお茶で一息ついてから暫くして母が、
「明日香。貴方たちの結婚式、もう一度やり直す?!」と徐に聞いてきた。
「え、どうして?!」
「貴方たちは秘密の結婚式をしたでしょう?!だからとても質素だったし、家族で食事会をしただけだから…。今日青蓮の結婚式を見て、披露宴だけでもどうかと思って…。」
そんな事を思ってくれたんだ・・。でも、私はあの結婚式に何の不満も無かった。
「ありがとう。でも必要無いよ。私は今とても幸せだから。」
そう答える私に、颯さんは何も言わずに聞いている。でも母は本当にそうなのかと尚も問いかけた。
「そうは言ってもねえ・・・。女の子なら誰でも夢見る結婚式なのに、私の着た花嫁衣裳で式をして、私の手作り料理で家族だけでお祝いなんて、哀しくなかったの?」
「確かに昔の私なら、物語のような白馬の王子様と出会って、皆にお祝いされ、美しい衣装を着て結婚式を挙げ、皆とご馳走を食べて幸せを共有する。そんなテンプレが良いと思っていたよ。
でも今は、本当に親しい人達に結婚式を見守ってもらい、心尽くしの料理でお祝いして貰った。それこそ価値があったと思っているの。」
「そっか。明日香がそう言うなら、良しとしますか。」と、まだ納得していないような表情で言った。
「私は颯さんと結婚出来た事こそが幸せだから。それに、二人の宝物を授かったしね。」そう言うと、母はやっと納得したようだった。
そんな私の答えに颯さんは微笑みを浮かべ、愛おしそうに私を見つめていた。
それから一年後、瑠衣が結婚式を挙げることになった。
だが結婚式の数日前、私は颯さんからある事を聞かされて非常に驚いたが、その事については私達だけの秘密である。
結婚式当日。
瑠衣のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの移動の負担を考え、地元の高原にあるリゾートホテルの庭で結婚式と披露宴を行う。
2000m級の雄大な山々。流れている川の透明度は抜群で川の石も白に近い。遠くに近くに生えている木々はさわさわと音を立て、爽やかな風が吹いている。美しい大自然の景色を生かす為、列席者の座る椅子以外は極力人工の物は置かず、代わりに可憐で可愛らしい花のブーケをそこかしこに飾り、大自然の中の結婚式を演出した。
披露宴は皆がそれぞれゆっくり楽しめるようにという配慮から、司会進行は有ったが、型に嵌まらず
歓談だけで演出は無かった。食事も自分の好みの料理を好きなだけ食べてもらうようにビュッフェスタイル。
新郎新婦と歓談したり、景色を肴に料理とお酒を楽しんだり、それぞれ自由に過ごしてもらった。
都会ではあまり出来ないスタイルに、招待客からは大好評だったらしい。
私はまだ祝福の言葉を言えてなかったので、新郎新婦の周囲に人がいなくなったのを見計らって瑠衣に話しかけた。
純白のシルクのウエディングドレスはVネックで、マーメイドトレーンラインのシンプルかつ上品なドレス。髪は夜会巻きにして、真珠のネックレスとイヤリングが上品さを更に際立たせている。
本当の美人は飾り立てなくても美しいと云う見本である。
「瑠衣、結婚おめでとう!すごく綺麗!」
「明日香、ありがとう。あ、紹介するね。彼は黒澤拓真さん。これから私ともども宜しくお願いします。」
「明日香さん初めまして。黒澤です。これからよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。瑠衣、またいつでもうち遊びに来てね。今度は旦那様と一緒にね。」と悪戯っぽくウインクした。
瑠衣は恥ずかしそうにしながらも、「うん、絶対行くから。」といってほほ笑んだ。
二人の幸せそうな姿に安堵の気持ちと一緒に、数日前に颯さんから聞いたことを思い出していた。
颯さんはこう言った。
「瑠衣ちゃんの結婚相手は、黒龍の生まれ変わりだよ。」
「・・・・。えー!!」
衝撃以外の何物でも無かったが、この事は私と颯さんの秘密であり、話すことは出来ない。
瑠衣は前世でも現世でも辛い経験をしているので是非幸せになって欲しいと思う。そして黒龍は人間として道を踏み外す事無く精一杯頑張って、いつかまた龍神へと昇華して欲しいと願わずにはいられない。
私は二人が夫婦としてお互い労わり合って、幸せである事を心から祈るしか出来なかった。
こうして、小学校からの親友の瑠衣は黒龍の生まれ変わりである黒澤拓真さんと結婚し、颯さんと一緒にこれから見守ることになった。
結芽は、一年前兄と結婚して私のお義姉さんになった。現在妊娠中で、もうすぐ生まれる。
”縁は異なもの味なもの”とはよく言った。
全ての縁は必然。無駄な事は何も無いと改めて思ったのだった。