眠ってしまった仁と天を颯さんが空中に浮かべ、起こさないようにそっと見守りつつ、奏白様とまた話をする事となった。

「奏白は、この地の守護をしつつも私達に力を貸すと云う事か?!」
「吾は此処から離れる事は無いが、いつも見守っておるし呼んでくれればいつでも参る。」

「恩義を感じての事であれば無用だぞ。」
「吾は其方を良き友と思っておる。明日香も子供らも気に入った。だからじゃ。」

「・・・。明日香だけなら守る自信はあるが、子供がいればどうしても隙が生まれてしまうからな。申し出は有り難く受け入れさせてもらう。」

颯さんはそう言って柔らかく笑った。

「眷属神に其方を嫌悪する者がおるのは仕方ない。手を出さなければ良いと思うてたが、手を出してきても其方は躱せると思うておった。じゃが、奥方や子まで排除しようとする動きが活発化して、
吾の耳に入ってきた。それで大日様に連絡したのじゃよ。 ”吾を守護に付けさせよ” とな。」 
奏白様は淡々と語った。

「奏白がついてくれれば私は何の心配もない。これから宜しく頼む。」
「よいよい。では、いつでも吾が気付くようにしないとな。先ほど笛と言うておったな。」

「明日香は笛の名手でな。精霊が力を貸す笛を授かってる。明日香、笛を見せてくれるか?」

「はい。これです。」私は静かにフルートを取り出し、捧げ持った。するとフルートはふわっと持ち上がり、奏白様の元へとゆっくり移動した。

空中に浮かんでいるフルートをじっと見て、
「む。確かに二つの笛がある。」
「はい。元のフルートに重ねて、横笛を授けられました。」

「ほぉ。それは良い。では更に重ねるとしよう。」
奏白様が呟き、フルートを空中へ浮かせたまま呪文を唱え始めた。

”ヒフミヨイ マワリテ メクル ムナヤコト アウノスヘシレ カタチサキ マカタマノ アマノミナカヌシ タカミムスヒ カムミムスヒ ミスマルノタマ”

蒼白様が呪文を唱えると、まばゆい光の輪が出現し、フルートはキラキラ輝きその光の輪に吸い込まれた。瞬間パァッとまぶしい光を発し、光が落ち着くと光の輪の中にフルートと横笛、新たに竜笛が出現した。

そして三本の笛は、光の輪の中で共鳴し、混ざり合うようにゆっくりと一つになっていった。
その後何事も無かったかのようにフルートは私の手の中に戻ってきたのだった。

「これで何処に居ようと吾と繋がっている。明日香、”龍神”という曲は知っておるか?!」
「はい。一度聞いたことが有ります。」
たしか、非常に神秘的な曲だがテンポが速い曲だったと記憶している。家に帰ったらお母さんに聞いてみよう。

「その曲を吹けば、いつでも駆け付ける。」
「!。ありがとうございます!」

「颯、今日は会えて嬉しかったぞ。」
「奏白。私も嬉しかった。又会おう。」

颯さんがそう答えると、奏白様は気品に満ちた笑顔を浮かべ、水面に消えていった。

**

夕方自宅に帰り、眠っている仁と天を布団に寝かせてから、颯さんに話しを聞いてみた。

「颯さん。今日はすごく吃驚しました。奏白様と不動明王様に出会ってお話をさせて頂いた上、
奏白様は私達の守護を不動明王様に願い出ていたなんて、本当に良いのでしょうか?」

「私の役に立とうと、かねてから決めていたかも知れないな。」
「颯さんに恩義を感じている事ってどんな事なんですか?」

「大した事では無いと思うが、聞きたいか?!」
「是非。」

私の返事を聞いた颯さんは「そうか。」と言って200年前に起きた事を話してくれたのだった。