「明日香。神が名を名乗ると云う事は、名乗った相手に支配されると云う事なんだ。」
と、徐に颯さんが爆弾発言をした。

「はぁぁ?!ど、ど、ど、どういうこっちゃ??」
颯さんの言ったことが理解できず、私は変な言葉使いになった。。

「そのままの意味だ。明日香は白龍を動かすことが出来るようになった。」
私は青ざめて、
「嘘でしょう?!そんな恐れ多い事出来ません。名前は聞かなかったことにします。」
と、言った。

「ほっほっほ!吾の名を呼び、吾も明日香の名を呼んだ時点で其方はもう吾と関係は切れぬ。
諦めるが良いぞ。」と、愉快そうに笑った。

私はあまりの事に眩暈がして腰が抜けそうだった。そんな私を見た颯さんは
「難しく考えなくても大丈夫だよ。明日香は笛で精霊の力を借りる事が出来るよね。それと一緒だと思えばいい。」

「いや、でも・・・。」そう言い淀んでいると、
「ほほ。そのことは後じゃ。今度は子供らの事よ。」奏白様は一旦話を切った。

はっ!そうだった! あまりの事に私は大事な子供達を忘れてた。

奏白様の言葉で正気に戻った私は子供たちに目を向けて、
「仁、天、ごめんね。母様びっくりし過ぎて、貴方たちを一瞬忘れてた!」
ちょっとだけお道化てそう言ったら、思わぬ答えが返ってきた。


「久しぶりだな、颯。そして明日香よ、こうして直接話すのは初めてだな。」と、神のオーラを放ちながら話しかける仁に、私はきょとんとして、「え・・・?」と言っただけで言葉が出てこなかった。

すると今度は天が仁の後に威厳たっぷりに話す。
「颯、明日香。良く働いてくれているようだの。礼を申す。」

仁と(そら)は神の依り代の役目がある。憑依されている状況には慣れていたつもりだったが、3歳児の
わが子に威厳たっぷりで呼び捨てされる親ってどうよ・・・。普通の感覚なら違和感しかない。
もう、開いた口が塞がらなかった。

颯さんは神が誰か理解したらしく、恭しく頭を垂れながら
「やはり不動様でしたか。ご無沙汰しております。」と言った。

私はびっくり仰天して、「不動明王様ですか?!」と、思わずひれ伏しそうになった。

「正確には大日様だな。不動明王は化身した姿じゃ。天照様とも呼ばれておる。」と、奏白様が教えてくださった。

そんなに高貴な神が降りてきてくださるとは思ってもみなかった。

「身に余る言葉、畏れ多い事でございます。」私は平身低頭、わが子に憑依している神に頭を垂れた。

仁と天は、この後交互に神の言葉を紡いだ。

「良い。此度、奏白に繋ぎをとらせたのには理由があった。」
「理由ですか?」と颯さんは不思議そうな顔をした。

「颯。其方はあやかしという今の立場に不満はあるか?」

「ありません。本来なら永久に幽世(かくりよ)にいるはずだったこの身を、私の願いに耳を傾け不動様の名代として現世(うつしよ)に戻してくださった。その事に何の憂いもありません。しかも明日香と夫婦になり、子供まで授けてくださった。感謝すれども、何の不満がありましょう。」 颯さんは迷いなく答えた。

「明日香よ。其方はどうじゃ?」

「私は颯さんと夫婦になれて、子供も授かり心から幸せです。この幸せは何物にも代えられません。」
私も淀みなく答えた。

「この先何があっても耐えられるか?」

「全て受け止めます。」
「颯さんとわが子の為ならば、厭う事も憂う事もありません。」  私達は思いの丈を口にした。

「何処までいっても颯はあやかしのままで、明日香は人間のままだ。それでも良いのか?」

「「はい。」」

この後も神は、禅問答のように 延々と私達に嫌という程質問してきた。。

そして、大日様はふっと笑った。

「其方らは良き関係を築けたな。吾の目に間違いは無かったようだ。」と、仰った。

「二人の覚悟は見て取れた。奏白に任せる。」

「ほっほっほ。承知。」

「颯、明日香、この先奏白が手助けする。吾も助言をする。それから、眷属の其方らに対する認識を改めるように吾が指導する。安心するが良い。」

そう言って神は子供達から離れていった。

「「ありがとうございます・・。」」 仁と天は疲れたらしく、すぐ眠ってしまった。