卒業公演が始まり、ステージでは卒業生が次々に自分たちの勉強の成果を披露していた。
私達はトリを務める。二人で練習してきた成果を存分に発揮しようね!と話してステージに立った。



公演会は大成功だった。今まで一緒に勉強してきた仲間と共に最高のステージを家族の前で披露出来、心身共に最高に幸せな気持ちで満たされた。本当にあっという間の4年間だった。

公演後、皆で楽屋に来てくれた。
「明日香お疲れさま。凄く良かったよ。」
「ホントに成長したわね。」
「流石、私の自慢の娘だ。」
「お前も一人前になったな。これからもガンバレよ。」
と、それぞれ褒めてくれて、本当に嬉しい。中でも修行中の身なのに兄が態々来てくれた事は本当に嬉しかった。

「ありがとう。ここまで来れたのは皆のお陰です。これからもよろしくお願いします。」
と改めて感謝した。

そういえば、結芽と兄は会ったことが無かったなあと思い、紹介することにした。
「お兄ちゃん、友達の結芽だよ。将来有望なピアニストなの。」
「結芽、私のお兄ちゃんで、今はお坊さんの修行中なんだ。」
と、紹介したら、なぜか二人共顔が物凄く赤くなっていた。


「如月結芽です。」
「青蓮です。宜しくね、結芽ちゃん。」


「?!どしたの二人とも?」と言うと、
「「なんでもない!」」と何故かハモって答えた。
「そうなの?二人共なんか顔赤いけど。」

すると母がにこっと笑って
「結芽ちゃん、今日ご家族は?」
「両親は残念ながら来られなかったんです。」
「そう。それは寂しいわね。この後予定はある?!」

「いえ、何も。」
「良かったら家に来ない?!細やかだけど家で卒業祝いしようと思っているの。」
「え!良いんですか?!」
「勿論よ。明日香も結芽ちゃんと一緒だと嬉しいだろうし、今日はめったに帰って来られない青蓮もいるし、にぎやかになって良いわ。」

すると結芽はまた顔が赤くなったが
「はい。ありがとうございます。とっても嬉しいです」
「じゃ、決まりね。明日香、私達は先に帰るけど気を付けて帰ってくるのよ。それと、今日は特別だからタクシー使いなさい。」

「うん、ありがとう。後でね。」
そして私と結芽は後片付けをしてタクシーで帰ったのだった。。

家に帰るとすでに食事の準備が出来ていた。
「明日香、結芽ちゃん、卒業おめでとう!乾杯!!」
「「ありがとうございます!!」」

そして、にぎやかに宴会が始まった。
「沢山食べてね。遠慮してたらダメよ?!すぐに無くなっちゃうからね。家は生存競争激しいのよ。」
そう言って笑う。

肉や魚の揚げ物に、和風ローストビーフ、煮物、サラダ、てまり寿司、茶碗蒸し、お刺身盛り合わせ、てんぷら、鯉の丸揚げ和風あんかけ、フルーツ盛り合わせ、ケーキ。

「美味しそう!遠慮無くいただきま~す!」
飲み食いしながらワイワイと賑やかく、これからの事やいろんな話が飛び交った。

「結芽ちゃんは、好きな人いるの?」と、母が徐に聞いた。
「え!!今は、いないですね。ずっとピアノの勉強で忙しくて、ピアノが恋人だって言ってました。」
「じゃ、フリーなのね。」と笑って、今度は兄に眼を向けた。

「青蓮、貴方は?!」
「俺?!いないよ。まだ修行中だしね。今はそんなどころじゃないよ。」
「ふふ。今はね。だけど、いずれは結婚するでしょ?!今からそういう相手がいても良いと思わない?!」
「それは・・・。そうだねと言ってすぐに出来るものでもないから。」

「そうね。でもね、世の中上手く出来ていて、その人のタイミングでちゃんと出会うように出来ているのよ。そのチャンスを掴むかどうかは本人次第よ?!」

訳が分からなかった私だったが、結芽が何故かまた顔を赤くしているし、兄も顔が赤くなっていた。

そんな二人を見ても鈍感な私は頭の中に???が付くだけだった。

「私が言う事ではないけれど、青蓮、後悔の無いようにしなさいね。」
「分かった・・・。」

宴会後、兄は遠慮がちに結芽に声を掛けた。
「結芽さん少し良いかな?!ちょっと話がしたいんだ。」
「はい。」結芽は顔を赤くしながら答えた。

「明日香。結芽さんと話しがあるから、ちょっと借りてくよ。」
「⁈うん。分かった。」

何処までも鈍い私は「話しってなんだろうね?」と首を傾げて母に聞いた。
「帰ってきたら結芽ちゃんに聞いてみたら?それにしても安定の超鈍感ぶりね。」
「へ?!」

「ふふ。母上、明日香はこういうことは苦手なんですよ。」
「颯さんは分かるの?」
「それはね。まあ、後で分かるから。」と言ってほほ笑んだ。

それから30分程経って二人は戻ってきた。二人の顔はほんのり赤く、何とも言えない
満ち足りたオーラを放っていた。

「その様子だとお互いの気持ちが通じたのね?」
「「はい。」」

そこでやっと私は気付いた
「!!ま、まさか、二人は?!」
「ほんっっとに鈍いわね。」

そして二人共一目惚れで「この人だ!」と心の声がしたのだとか。
それに直ぐ気が付いたのは母だったのだ。

兄は真面目な努力家。優しくてイケメン。昔からモテていたが、何故か恋人はいなかったらしい。
兄曰く、「心が動かなかった。」らしい。

そんな兄が結芽に一目惚れして、結芽も兄に一目惚れだなんて、ホント、世の中どういう風に動くか分からないものだ。

「はあ。私って何でこう云う事に疎いのかなあ。」と、一人落ち込むのだった。

兄と結芽は結婚の約束をして、二人は一旦それぞれの道へと進む。

結芽はこれから2年間の予定で海外へ武者修行に行く。兄はもう暫く西の古都の寺で修行し、帰ってくるという。

「結芽、お互いガンバろうね!」
「うん。これからもよろしく。」

**

そして私は、颯さんと一緒の時間が増えて幸せに満ちていた。
私もこれから演奏家として、また颯さんの妻として相棒として新たな気持ちで頑張っていくつもりだ。

「卒業おめでとう。充実した大学生活だったみたいだね。卒業公演すごくよかったよ。」と言ってくれた。
「ありがとうございます。颯さんが側にいてくれたおかげです。これからもお願いします。」と感謝を伝えた。

「うん。宜しくね。」そう言って優しい笑みを浮かべた。
「卒業したら新たな未来を見たいと言ってましたがどんな未来なんですか。とても気になってたんです。」

「・・・。」颯さんは私の顔をじっと見つめた。
「颯さん?」

「明日香との新たな未来。私は待っていたんだよ。」
「待っていた?」
「そう。待っていた。」

「私と君は5年前に出会った。その時君は17歳。君を見つけたときどんなに嬉しかったか今でもよく覚えているよ。あまりにも嬉しくてその場で求婚してしまった。」

「私もよく覚えています。いきなり妻になれと言われ、私はゆりさんの生まれ代わりだと。颯さんの話すこと全てが信じられなくて、変な人に絡まれた思って怖かったです。」

「ふふ。確かにそうだね。今考えればあれは流石に無いと自分でも思う。それでも求婚せずにはいられなかった。」

今の環境があるから颯さんを受け入れることが出来て、夫婦としてここにいるんだと思います。全てが必然だったんですね。。」
「そう、全ては必然。不動様の導きだった。」
「はい。」

「結婚初夜に明日香は私に身を委ねようとした。だが私は来たるべき時が来るまで待つと言った。覚えているか?」

「はい。よく覚えています。覚悟していたのに颯さんがそう言ったので、正直ほっとしました。」
「あの時明日香の気持ちはまだ追い付いていなかった。だから夫婦として確かな信頼が出来るまで待つことにしたんだよ。」
「颯さんと同じ景色を見て、感じて、優しい気持ちに触れて、私は少しづつ颯さんに惹かれ愛していました。私は貴方の側に永遠にいたい。本当の意味で家族になりたいです。」

「私も同じだ。改めて言う。君を愛している。私の妻となり永遠に側にいてほしい。」
「はい。喜んで。颯さん大好きです。」
改めてお互いの気持ちを確認した。これから先もずっと一緒にいたい。

その夜、颯さんと私は結ばれた。結婚5年目の初夜。この夜の事をずっと忘れない。

本当の意味で夫婦となった二人はさらに信頼関係が深まり、魔物の浄化が前よりもっと楽になった気がする。
強い結びつきがパワーになったのだろう。

3か月後、明日香は妊娠したことが分かった。父も母もみんな大喜びしてくれた。
もちろん颯さんも喜んでくれた。が、必要以上に過保護になってしまったのは誤算だった。
まさか颯さんがこんなに心配性だったとは。

浄化に連れて行くなんてもってのほか。これはまだ分かる。
だが日常の行動に制限が出来た。例えば、重い軽いにかかわらず物を持ってはいけない。
転んだら大変だと言って私の行く所には必ず付いてくる。しかもトイレまで一緒に入ろうとするのは流石に無いのでしっかり断った。

一番困ったのは笛の練習。疲れるから駄目だと禁止されてしまった。いやいや。毎日練習しないと指が動かなくなるし、少しは動かないと返って体に悪いと言ってもなかなか聞き入れてはくれなかった。

心配性もここまでくると本当に困ってしまう。ストレスが溜まってお腹の子にも悪い。
見かねた母が彼に助言してくれたおかげで少し解消された。

しぶしぶながらも笛は練習して良いと言ってくれた。
「どこに魔物が出るか分からないから、必ず私と一緒にいるのが条件だ。」と言われたけれど。
まあ心配し過ぎは困りものだけど、こんなに想ってくれるのは嬉しいとも素直に思う。

こんな日常を送っていたある日、兄が西の古都から帰ってきた。これからは父と一緒にお寺の仕事をする。
7年間離れて暮らしていたので、颯さんとも初めて一緒に暮らすことになる。

青蓮(せいれん)は勉強が出来てイケメンでスポーツ万能だったので子供のころからモテていた。
学校の帰り道、どこの誰かも分からない女の子から兄に渡してくれと恋文を持たされたことは一度や二度ではない。

子供の頃から日焼けして引き締まった体付きに涼しげな目元、と、どこをとってもさわやかなイケメンで、しかも優しいなんてイケメンとして完璧だ。芸能界でもやっていける。

そんな兄の選んだ道は寺を継ぐこと。父が強制したわけではない。
イケメン僧侶に優秀な霊能力を持った父。これからうちのお寺はもっと忙しくなると思う。

更に颯さんが姿を見せて仕事をしたら、もうどんなことになるか想像しただけで恐ろしい。
兄は最初は父のような霊能力は全く無かった。それが修行の賜物なのか、元々才能があったのか、霊能力が開眼した。まだ父の域までいかないが段々強くなると思う。

そんな兄を颯さんが、魔物の浄化に一度連れて行った。これも経験だと言って。
夜中に帰ってきた兄は顔が青ざめ、しばらく放心状態だったので、私は「大丈夫?」と聞いてみた。

兄は私に向かって「お前、今までずっとこんな仕事していたのか?」というので、「うん。」と答えた。
「いや、普通に怖いだろ。」
「最初は怖かったけど、颯さんと一緒に戦ってたら慣れたよ。」
「マジか…。」

「まだまだ修行しないとだめだな。また連れて行くから。」と颯さんに言われてかなりショックを受けたみたいだ。。
「なんてことだ・・・。」とつぶやいてがっくりと肩を落とした。
「習うより慣れよって言うしね」と突っ込んだ。

そんなことがありながらも、明日香は臨月を迎えた。お腹には二人いる。
「いい子で生まれてきてね。」と優しく話しかけ、颯さんも優しく微笑んで
「安心して生まれておいで。」とお腹に語り掛けた。

そしてその日は突然やってきた。自室に入ってそろそろ寝ようかと思った矢先陣痛が来た。痛みがいつもと違うので分かる。

最初は痛みの間隔が長く、段々と痛みの間隔が短くなっていく。颯さんが側で手を握って励ましてくれる。
彼がいてくれるだけで安心できる。強くなれる。そう心の中で繰り返し、痛みに耐えた。
自宅で産むと決めていたので助産師さんも待機している。

心配そうな颯さんに「こんな痛み、全然平気。」と笑顔で答えたつもりだがどうやら笑顔にならなかったらしい。

その後の事は自分ではよく覚えていない。気が付いたら産まれていた。可愛い双子の男女。
「よく頑張ったね。本当にありがとう。こんなに幸せな事は無いよ。」と言って彼は微笑んでくれた。
「私も幸せです。ありがとうございます。」涙が自然に出てきた。

そして「産まれてきてくれてありがとう。これからよろしくね。私たちの可愛い赤ちゃん。」と言って優しい笑顔を送った。